2010年11月28日日曜日

「『重不況』の経済学」(新評論)2010年11月下旬刊


重不況の経済学」という本を新評論から出しました。

※ → アマゾンの「重不況の経済学」のページ(厳しい書評も)

     アマゾンの書評で・・・、例えば読みづらいというのは、主に、第1章第2節に原因があると思います。そこでは引用等が錯綜しているために確かに読みづらくなっています。
    ただ、経済学に一定以上の知識がある人の中には、①取り扱っている内容が広範にわたり、②着眼点が非常におもしろく、③刺激になる部分がある、④特に第3章は見たことがない説明・・・と言っていただいている方々もいます(①〜④はそれぞれ別の方のコメントですが・・・(社交辞令もあるとは思います))。

1 内容の核になる視点は、次のとおり、素朴かつ単純です。
 核となる視点は、
① 従来、経済学では新古典派成長理論RBC理論をはじめとして、経済成長等を供給制約の視点から捉える傾向が根強かったと考えます。これに対して本書は、経済の体系的理解の基盤に、需要制約の観点を組み入れようと試みています。・・・おおむね第2章

② そこでは需要制約(不足)の機序が問題となりますが、これについては、まず理念的には、実体経済で生産された財・サービスが円滑に売れるには、広義の生産コストとして支払われた資金がすべて、そこで生産された財等の購入に使われる必要があります。しかし、本書では、その一部が土地購入などの資産投資の形で金融・資産経済に「漏出する一方で逆方向の「還流」が不足するために、実体経済の生産物の需要が不足する(場合がある)と考えます。こうした観点から、本書ではセイ法則の破れの変動に積極的に注目し、フロー(実体経済)ストック(金融・資産経済)の循環関係を再整理しようと試みています。・・・おおむね第3章

③ また、「実体経済」と「金融・資産経済」では、市場参加者の目的に違いがあるために効率的市場仮説の成立の程度が大きく異なると考えます(なお、従来から効率的市場の制約理由とされてきた不完全情報や経済主体の不合理な行動による説明は基本的に両経済を区別しません)。また、このことや、漏出・還流の変動に与える影響のメカニズムしたがって影響のタイミングにも違いが大きいことから、両経済を従来よりも相対的に分離したものとして捉え、より独立性の高い存在として扱うべきことを主張しています。・・・主に第4

④ 本書は、経済現象の多くの部分を、この純漏出(=漏出−還流)の変動によって単純に理解しようとします。当然、こうした理解は、金融政策や財政政策また産業政策のあり方の議論に様々な示唆を与えます。・・・おおむね第4章以後

   なお、第1章は、まえふり、導入的な部分で、日本経済の現状と、構造改革の結末を整理していますが、若干、構造改革派に対して批判的なので、抵抗感のある方もおられるかもしれません。
 ※この第1章で使用したグラフの一部を、このブログの「名目では構造改革期に世界シェアを半減させた日本経済」に掲載しています。

2 目次

第1章[日本経済]沈みゆく日本 ー構造改革と長期停滞ー
 第1節 2000年代日本経済の劇的地位低下
 第2節 構造改革派が考える日本経済の停滞論の検証

第2章[経済成長]ボーモル効果 ー生産性と経済成長ー
 第1節 生産性、景気循環と経済成長
 第2節 ボーモル効果、不均等な成長と新たな経済成長理論
 第3節 プロダクト・サイクルと付加価値成長のメカニズム

第3章[経済循環]セイ・サイクル ー漏出と貨幣の流通速度ー
 第1節 漏出のある「セイ・サイクル
 第2節 漏出からみた「貨幣の流通速度
 第3節 漏出のあるセイ・サイクルで見た経済循環

第4章[貨幣と経済]価格投資 ー金融・資産経済と実体経済+「バブル」ー
 第1節 金融・資産経済と実体経済で異なる市場のメカニズム
 第2節 過剰資本の弊害:先進国の成長、経営の短期志向化
 第3節 実体経済と金融・資産経済の関係のあり方(両者の分離)

第5章[先進国経済]非価格競争 ー先進工業国と非価格競争戦略ー
 第1節 世界経済における先進工業国の意義と直面する課題
 第2節 高付加価値と「非価格競争」
 第3節 非価格競争戦略

第6章[政府]北欧型政府論 ー需要不足と政府支出ー
 第1節 政府と一国経済
 第2節 重不況,短期の不況への対応
 第3節 長期的な需要の趨勢変動と北欧型政府論

補論[経済学理論]フリードマン対ガリレオー経済学の再構築ー
 第1節 理論・仮説の確からしさ
 第2節 「仮定」の妥当性と「仮説」の妥当性
 第3節 科学の発展と「大統一理論」

参考文献