(「『重不況』の経済学」(新評論)2010年11月下旬刊全体概要) /《このブログ全体の目次》
この本の核は第3章です。第1章は導入部。第2章は第3章へ到達するためのステップ。第4章以降は、第3章を各分野に展開したものになっています。 《アマゾンのページ》
この本の核は第3章です。第1章は導入部。第2章は第3章へ到達するためのステップ。第4章以降は、第3章を各分野に展開したものになっています。 《アマゾンのページ》
第1章 [日本経済] 沈みゆく日本 ー構造改革と長期停滞ー
① 事実の指摘だけですが、日本経済が90年代ではなく2000年代に大きく落ち込んだこと(世界に占めるGDP比が半減)を明らかにしました…もっとも、これはここ1年ほどの間に次第によく知られるようになりインパクトがなくなってしまいました(本書の脱稿は2009年12月))。
② 「構造改革」の理論的な根拠が実証的にも崩れている点を整理しました。
第2章 [経済成長] 生産性とボーモル効果からみた経済成長
③ 全体として需要の制約の視点が重要であることをあらためて整理しました。
④ 90年代以降の経済停滞の理由は、生産性の向上に対して生産・販売数量が十分には伸びなかった点にあることをある程度整理しました。……過度の生産性向上論の誤りも指摘(これは、ごく常識的にも見えますが、これに対して主流派の新古典派系の経済学では、セイ法則によって数量は十分に伸びると考える傾向が強いわけです)
⑤ 「ボーモル効果」と「ペティ=クラークの法則」を需要制約の観点から捉え直し、「ボーモル効果」については、より精密な成立条件を明らかにしました。
⑥ 成熟した先進国経済では長期的に需要不足が生じる可能性を「プロダクトサイクル」と需要の関係から示しました。
⑦ 開発途上国と先進工業国間にある成長速度の違いの原因の一つとして、需要サイドの観点から、開発途上国が魅力の高い新製品の確率的発生に要する時間を圧縮して切れ目なく「新製品」を投入できるという、いわば「新製品投入時間圧縮型成長」を整理しました。
⑧ 供給制約(資本投入、労働投入、生産性上昇の不足)を前提とする「新古典派経済成長理論」の限界を明らかにし、需要の制約の観点を組み入れた新たな成長理論の必要性を整理しました。
第3章 [経済循環] セイ・サイクル ー漏出と貨幣の流通速度ー
⑨ 「セイ法則」の成立条件の検討から、この法則の「財」の定義に関連して混乱があったことを整理しました……そこでは、「セイ・サイクル」で生産された財の生産費用(賃金、利子、配当)として家計が受け取った資金が「セイ・サイクル財」以外の使途(土地の購入や預金など)に使われる(金融・資産経済への漏出)一方で、金融・資産経済からの還流(土地売却代金の消費への充当や預金の設備投資資金としての貸付)が不足する場合があり得ることに注目しています。
⑩ 「セイ・サイクル」(実体経済)と金融・資産経済間の資金の漏出・環流変動量に注目することで経済現象の多くが説明できる可能性を示しました。
⑪ 「輸出立国戦略」による経常収支黒字分が海外債権の形で実体経済(セイ・サイクル)からの漏出となるために内需を抑制すること、また過度の国際競争への対応を迫られることから、国民にとって不幸な選択である部分があることを示しました。(なお、ここでは「輸出立国戦略」とは、内需不足を純輸出でカバーしようとする政策と定義)
⑫ 漏出の観点から、「貨幣の流通速度」に関するヴェルナーの解明を説明しました。
⑬ 通常の景気変動と、重い(例えば流動性の罠が生じ得るレベルの)景気変動(これを「重不況」と定義)を区別し、前者では様々な景気変動要因が互いに相殺される結果、利子率の影響力のみが大きく見える一方、後者では、前者では相殺されていた要因の作用の方向が斉一化されて影響力が顕在化し、利子率の影響が低下すること、したがって、そこでは、バランスシート不況論、マインドや市場の成長見通しなど利子率以外の要因で直接に(実質利子率などの利子率を介してではなく)経済を理解すべきことを主張しています。
⑬のb マクロ経済とミクロ経済を結び、ミクロの集計量がマクロに顕在化するメカニズムとして『斉一性』に注目しています。
第4章 [貨幣と経済] 価格投資 ー金融・資産経済と実体経済+「バブル」ー
⑭ 「金融経済の肥大化」の原因の一つがセイ・サイクルからの漏出超過の累積である可能性があり、また「量的緩和政策」がそれに関係している可能性にふれました。関連して重不況対策としての金融政策の有効性に限度があることを示しました。
⑮ 「効率的市場仮説」が完全には成立しない原因に関連して、市場メカニズムを、「コスト抑制」を目的に参加する市場参加者が多数を占めるためにコストが効率的に抑制される実需型価格メカニズム(=主に実体経済に係わる)と、市場参加者の目的が「資産価値の維持・拡大」にあるために価格を抑制するメカニズムが働かない価格投資型価格メカニズム(=主に金融・資産経済に係わる)に分離し、後者では(不完全情報や経済主体の非合理的行動とは異なる要因で=つまり合理的理由で)安定した均衡価格が成立しない可能性があることを示し、さらに漏出・環流の観点とを組み合わせて、「バブル」の形成と崩壊を説明しました。
⑯ 金融・価格投資セクターの短期的行動特性が、実体セクター企業の能力や競争力に悪影響を与えていることを示しました。
第5章 [先進国経済] 非価格競争 ー先進国と非価格競争戦略ー
⑰ 新古典派成長理論や内生的成長理論などのサプライサイドの成長理論では視野の外にある需要サイドの(先進工業国の)「豊かな市場」(それはその国が高コストであることを意味します)がイノベーションに不可欠であることを示しました。
⑱ 競争には価格競争と非価格競争があり、企業レベルの(いわゆる)「競争力」は、価格競争だけでなく非価格競争力に大きく依存していることを整理しています。
⑲ 高コストとは高付加価値を意味するため、高コストの先進工業国が高コストを維持し続けるには、非価格競争戦略を取るべきことを(改めて)主張しました。
第6章 [政府] 北欧型政府論 ー需要不足と政府支出ー
⑳ 一国経済と政府財政が相互補完関係にあり一体不可分のものであることを明確にし、一国経済全体から見れば、特に成熟した先進国では、民間に代わり政府が需要を作る「北欧型政府」にも意味があることを示しました。
㉑ 第3章のセイ・サイクルの検討に基づいて、政府の持続的な「財政赤字」の限度に関する基準の一つとしてGDPギャップを指標とする「マクロ経済補完基準財政規模」に注目すべきことを示しました。
補論 [経済学理論] フリードマン対ガリレオ ー経済学の再構築ー
㉒ 新古典派経済学の研究手法には大きな問題点があり、単に「説明力が高い」だけでは、その仮説が正しいことの証明にはならず、「説明範囲が広いこと」が重要であることを明らかにしました。
㉓ 自然科学の発展は、例外を発見して、それを理論の中に取り込むために新しい統一理論が出現することで発展してきたのに対して、経済学では、専ら例外を排除する研究手法をとってきたために発展が停滞している可能性があることを整理しました。
注)上記で「示しました」とあるのは(もちろん)証明したというレベルを意味しません。