2010年9月25日土曜日

◎日本で、これまで散々公共事業をやってきたのに駄目だったのはなぜ?

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 <以下は、アマゾンの三橋貴明氏のいつまでも経済がわからない日本人』書評欄の『間違っています。』という書評に対するコメントについて、さらに私がコメントした内容に若干加筆したものです。>

 この疑問は、すごくまっとうです。
 この疑問は、まさに1990年代末の日本の経済学者たちの頭を支配した疑問でした。たしかに効果がないように見えたのです。その結果、日本経済ではサプライサイド(供給側)に「構造的な問題がある」という考えを持つ新古典派、中でも、「新しい古典派」の「実物的景気循環理論の立場が、政治やマスコミに大きな影響力を与えるようになりました。

    その結果として、2001年に成立した小泉政権下で行われたのが構造改革でした。

    しかし、この『疑問(断定)』は多分誤りです。・・・公共事業に効果がないように見えたのには、別の理由があります。
 
    公共事業に効果がないように見えた理由は、90年代初頭のバブル崩壊で資産価格が大幅に下落し、企業はそれに関わる借入金を返済するために、利益や設備投資を削って借入金返済に資金を投入し続け、その結果、設備投資需要の縮小で日本経済には大幅な需要不足が生じたからです。

    資産価格の下落で失われた価値は土地と株だけで約1500兆円。これは日本のGDPの3年分にあたりますが、1930年代の米国の大恐慌で失われた価値が当時の米国のGDPの
1年分にすぎなかったことと比較すれば、その規模の大きさがわかります。

    したがって、この不良資産の処理には長い時間がかかりましたから、日本経済は長期にわたって巨額の需要不足状態が続いたのです。
   財政出動による公共事業は、その需要不足をある程度カバーし、大恐慌化する事態は防げましたが、常に少しずつ小さすぎたのです。

・・・というのが(日本では無視に近い状態でしたが)今年、米国で出版した本に、複数の 
ノーベル経済学賞受賞者が推薦文を書いたり、書評を書いたりで、いまや日本より海外で脚光を浴びているリチャード・クー氏の「バランスシート不況論です。

    ところが、日本では、実際は需要不足が原因なのに、これだけ不況が長引くのは「構造的問題」があるからだと考えて、構造改革というサプライサイドの政策がとられました。しかし
 、もちろん、残念ながら、これには効果はありませんでした。

    このことは、例えば、日本の一人当たりGDP順位が、まさに小泉構造改革期間中(2001-2006年)の5年間にOECD諸国内で3位から18位まで急落したことでもわかり
 ます。

  この日本の人口一人当たりGDP(=ほぼ日本全体の生産性です)順位の低下状況は、内閣府経済社会総合研究所のページをごらんください。
   これを見ると、OECD30か国の中で、1991年以降2000年まで、橋本改革時の1998年の6位を除いて、ずっと日本は2位~4位でした。それが2000年の3位を最後に、2001年から2006年の小泉政権期には、毎年順位を1~3位ずつ下げ、2007年には19位になっています。
   上下変動しながら、たまたまそうなったというのではなく、毎年一貫した低下のトレンドを描き続けてこうなったのです。


    一人当たりGDPとはほぼ「日本全体の生産性」を表しています。それが相対的にせよ下落を続けたのですから、構造改革に、他国並みに経済成長させたり生産性を向上させたりする効果がなかったことは明らかです

    たしかに、リストラなどで、一見企業の競争力は向上しましたが、それは、元々売上げ不足で企業内で有効活用されていなかった人材を、「企業外の」失業者に置き換えただけで、人材が有効に活用されないことは変わらなかったのです。リストラで「企業だけでみた生産性」は上昇しましたが、企業の外の失業者も含めた「日本全体の生産性」は(他の国に比べて)むしろ低下したのです。

   つまり、1990年代、2000年代に、製造業の労働生産性が高い伸びを示したのにその雇用が減少し、逆に生産性がほとんど伸びなかったサービス業が雇用を伸ばしたため、全体として日本の生産性の伸びが低くなっています。
   これは、厚生労働省の『労働経済白書(平成20年版)』(
第3章3節の215~218ページあたりで指摘されています。特に「第 3 -(3)- 2 図 就業者数と労働生産性の推移」)をご覧ください(リンク先は第3章第3節全体のpdfです)。

    需要不足下では、経済成長を制約しているのは需要であって、サプライサイドの要因、つまり資本不足でも、労働力不足でも、生産性上昇率の低下でもありませんから、生産性上昇率を高めるなどのサプライサイドの対策に効果がないのは当然でしょう。

    サプライサイドの対策に効果があるのは、需要不足を脱出してからのことです。2000年 
以降ずっと、需要対策という短期の対策よりもサプライサイドという長期対策が大事だと言い続けられてきましたが、10年経っても、一向に需要不足から脱出できていません。つまり、サプライサイドの対策が効果を現す場面は来ていません。

    サプライサイドの対策に効果があるのは、供給不足の経済状況下だけです。まさに日本はマゾ的な政策を続けてきたと思います。

2010年9月24日金曜日

通説化している「古九谷は伊万里焼」説の物証はねつ造だった

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二羽 喜昭 著『古九谷論争の最期―神の手の贈物 伊万里説』 (時鐘舎新書) アマゾンに書いた書評です 2010/8/2  2011.5.5加筆

 偶然読んだが、十分説得力があるようにみえる。 

 古九谷は石川県九谷産ではなく、伊万里焼だったことがわかったという話は、聞いたことがあった。しかし、その有力な物証とされた伊万里での古九谷破片の発見が、ねつ造だったという(東北旧石器文化研究所のゴッドハンド事件のように)。 

 つまり、佐賀県有田の山辺田山窯跡遺跡の複数の「登窯」跡から、古九谷の色絵陶片が出土したことが古九谷伊万里焼説の有力な物証とされたのだが、第一に、「登窯」では色絵は焼けない(これが決定的)。第二に、色絵磁器片だけでなく色絵陶器片が「物証」に混じっている(古九谷は磁器)、第三に、年代的にまだ色絵が出現していない時期の登窯跡からも色絵片が発見された(これも決定的)。第四に、陶片は、いずれも地層ではなく「地表で」採取されている。 

 色絵磁器の制作工程は、1000度以上の高温の登窯で白磁を作り、それに絵付けをした上で再び800度くらいの低温の絵付窯(上絵窯)で焼いて完成する。傾斜地に築かれる巨大な登窯に比べて、絵付窯は低温で小さいので、登窯とは離れて(町場などに)置かれることが多い絵付工房に設置されることが少なくない。低温なので、失敗作もほとんどなく、陶片、磁器片が捨てられることもほとんどないという。 

 発掘調査報告書にも、当初は、後世の攪乱の可能性が高く疑わしいとして記載されなかったという。しかし、報告書の不可解な受取拒否(騒動)などを経て(登窯では色絵片が出るはずがないことを知らない人たちが強く出土の記載を求め)、6年後に色絵片出土を記載して公表された。文化庁は、公表と同時に、この遺跡を国指定史跡に指定した(文化庁も、伊万里焼説を強力に推した東京国立博物館陶磁室(当時。現在は廃止)も知らなかったらしい。お粗末)。 

 絵付の生産工程の知識のない誰かが絵付陶片(磁器片)を埋め、それが「発掘」されたのである。著者は、犯人は発掘関係者だと思っているようだ。

 著者は、東京国立博物館陶磁室をはじめとする伊万里焼説支持者たちが、こうした色絵磁器生産工程の知識がないなどとは、まったく思いもよらなかったために、当時は、彼らの主張の意図や論点が見えず有効な反論ができなかったと述べている。
 改めて今になって伊万里焼説支持者達の当時の論考などを見なおしてみると、彼らは色絵磁器の生産工程について知識がなく、登窯で色絵磁器は焼けないことをまったく知らなかったことがわかったという。
 注)なお、工夫をすれば、登窯でも絵付けした磁器を焼くことはできるという。し
  し、そうした手法が今日でも例外的であるのは、当然、理由があることだと著者は
  いう(仮に、そうした工夫をして焼いていたのであれば、それは技術史的にも興味
  ある事実となるはずのものであり、発掘によって証明されるべきだったろう)。
   また、上記のように「年代的にまだ色絵が出現していない時期の跡からも色
  絵片が発見され」ているが、これは、この登窯による色絵磁器焼成問題以前に、
  り得ないとであり、それは色絵片の一連の出土全体に疑義を生じさせる重大な問
  いうことになる。素直にこれを評価すれば、受け取り否をされた当初発掘
  調報告書案の「後世の攪乱」という評価が科学的態度とうことになるだろう。

 注)このように見ると、最終的に公表された発掘調査報告書は、科学的な検討手順を
  踏んで作成されたものとは認めがたく、学問的な価値がない、信頼できないものと
  いうべきように思える。・・・意図的なねつ造かどうかは別にして。
  (これは(上記のように)報告書の公表に際して明らかに不可解な動きがあっ
  と以前の問題である。)

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http://www.nsknet.or.jp/~fmukai/