2010年11月30日火曜日

日本の行政システムは非効率か?

                                                                                             ・・・このブログ全体の目次
                                                                           (23.7月下旬に「参考」など若干コメントを追加

    日本では、しばしば日本の行政が非効率であることが前提に議論が行われている。しかし、その前提にはデータの根拠がない。居酒屋でよく聞く?程度の事実認識から出発して、学者や政治家がもっともらしい議論を積み上げている。
    しかし、仮に日本の行政が実際にはそこそこ効率的であるなら(最下段の参考参照)、効率的な行政を『削って』生じるのは、行政サービスの低下である。
                                                          ・・・・・・・・・・

    さて、(地方)分権の程度は、一般に「集権ー分権軸」で評価する。これは国と地方の間で国の権限の強さの程度を表す。行政学では、これに、「分離ー融合軸」の観点を加えて評価する場合がある。
  「分離」とは、国の事業の執行が地方団体に依存していない状況を表す。具体的には、国が地方に出先機関を置いて直接事業を執行する形態である。

  一方、「融合」とは、国が、事業の実施を地方団体に補助したり委託したりして執行している状況を示す。補助金行政といって、地方分権に逆行するとか、補助金申請交付手続きや要件の確認など無駄な仕事が多いともされる。

  一般に、米国や英国分権的かつ分離型の国。対して、日本やドイツは相対的に融合型の傾向が強い。

  この図は(少し古いが)、縦軸に人口千人当たり公務員数、横軸に(国+地方団体の支出総額に占める)国の直接支出の割合を示している。縦軸は低いほど効率的、横軸は左ほど融合的、右ほど分離的というか国の役割が大きい。
  公務員数は、福祉サービス等を直接公務員で行うか、民間にやらせるかでも違うので、断定はできないが、次のことが言えそうである。・・・反論がありそうだが。
(人口千人当たり公務員数が少ないほど効率性が高いと考えると)
① 日本の行政システムは効率性が高い(少なくとも低いとは言えない)。
② 国が直接サービスを提供している割合の高い国の行政の効率性は低い
②B 地方団体がサービスを提供している割合の高い国の行政の効率性は高い。
③ つまり、大きい組織が直接サービスする方が常に効率的であるわけではない。
    これは分権論に有利である。
④ 一方で、国の関与が強い「融合型」の方が効率的に見える。

  以上からは、【限定された議論に過ぎないが】アバウトに、分権型かつ融合型のシステムが効率的に見える。

   最後に、なぜ国が地方出先機関をおいて直接執行するよりも地方公共団体に執行を任せた方が効率的かと言えば、その理由は議会の存在である。議会の形骸化、形式化、無力を言う声が高いが、議会の存在は、行政に常に無言の圧力を加え続けている。首長や管理職は、議会がどうみるかを常に意識しながら(議会で取り上げられるかどうかに係わらず。そして万一取り上げられた場合にも、批判の的にならないように)政策立案や意志決定を行っている。

    こうした意味で行政の中で、「本庁」「本省」と「出先機関」の緊張感の差は極めて大きい。当然ながら、出先機関には「議会、国会がない」し、選挙で選ばれ住民やマスコミを常に意識している議会議員、首長から遠いのである。まして国の地方出先機関は、物理的な距離も、組織的な距離も極めて中枢から遠い。この結果、出先機関は、権限も責任も小さい一方で、効率性や仕事の質を高める方向の圧力が常に弱い。

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参考・・・・・・本川裕氏の「社会実情データ図録」の関連するグラフを参考に次に掲げる。

 大きな政府小さな政府(おおむね2005年データ)
      ・・・日本はOECD諸国中で、公務員数規模で最小、財政規模で5番目に小さい政府

 OECD諸国の公務員数(おおむね2005年データ)
     ・・・日本は先進国の中では最も少ない。
    これが統計的には最も信頼性が高いが、外に総務省統計局や野村総研の推計もある。
    公務員の範囲・定義、対象国が異なるためにずれがあるが、日本が少ないことは変わ
    らない。

3 OECD諸国の公務員給与水準(おおむね2005年データ)
       ・・・「この図録は2010年10月9日から11日にかけてネット上で大きな反響を呼んだ。」
     「この図は不当であるという批判の論拠となっている点について言及しておこう。」
      として、末尾に追加コメントが掲載されている。

2010年11月28日日曜日

「『重不況』の経済学」(新評論)2010年11月下旬刊


重不況の経済学」という本を新評論から出しました。

※ → アマゾンの「重不況の経済学」のページ(厳しい書評も)

     アマゾンの書評で・・・、例えば読みづらいというのは、主に、第1章第2節に原因があると思います。そこでは引用等が錯綜しているために確かに読みづらくなっています。
    ただ、経済学に一定以上の知識がある人の中には、①取り扱っている内容が広範にわたり、②着眼点が非常におもしろく、③刺激になる部分がある、④特に第3章は見たことがない説明・・・と言っていただいている方々もいます(①〜④はそれぞれ別の方のコメントですが・・・(社交辞令もあるとは思います))。

1 内容の核になる視点は、次のとおり、素朴かつ単純です。
 核となる視点は、
① 従来、経済学では新古典派成長理論RBC理論をはじめとして、経済成長等を供給制約の視点から捉える傾向が根強かったと考えます。これに対して本書は、経済の体系的理解の基盤に、需要制約の観点を組み入れようと試みています。・・・おおむね第2章

② そこでは需要制約(不足)の機序が問題となりますが、これについては、まず理念的には、実体経済で生産された財・サービスが円滑に売れるには、広義の生産コストとして支払われた資金がすべて、そこで生産された財等の購入に使われる必要があります。しかし、本書では、その一部が土地購入などの資産投資の形で金融・資産経済に「漏出する一方で逆方向の「還流」が不足するために、実体経済の生産物の需要が不足する(場合がある)と考えます。こうした観点から、本書ではセイ法則の破れの変動に積極的に注目し、フロー(実体経済)ストック(金融・資産経済)の循環関係を再整理しようと試みています。・・・おおむね第3章

③ また、「実体経済」と「金融・資産経済」では、市場参加者の目的に違いがあるために効率的市場仮説の成立の程度が大きく異なると考えます(なお、従来から効率的市場の制約理由とされてきた不完全情報や経済主体の不合理な行動による説明は基本的に両経済を区別しません)。また、このことや、漏出・還流の変動に与える影響のメカニズムしたがって影響のタイミングにも違いが大きいことから、両経済を従来よりも相対的に分離したものとして捉え、より独立性の高い存在として扱うべきことを主張しています。・・・主に第4

④ 本書は、経済現象の多くの部分を、この純漏出(=漏出−還流)の変動によって単純に理解しようとします。当然、こうした理解は、金融政策や財政政策また産業政策のあり方の議論に様々な示唆を与えます。・・・おおむね第4章以後

   なお、第1章は、まえふり、導入的な部分で、日本経済の現状と、構造改革の結末を整理していますが、若干、構造改革派に対して批判的なので、抵抗感のある方もおられるかもしれません。
 ※この第1章で使用したグラフの一部を、このブログの「名目では構造改革期に世界シェアを半減させた日本経済」に掲載しています。

2 目次

第1章[日本経済]沈みゆく日本 ー構造改革と長期停滞ー
 第1節 2000年代日本経済の劇的地位低下
 第2節 構造改革派が考える日本経済の停滞論の検証

第2章[経済成長]ボーモル効果 ー生産性と経済成長ー
 第1節 生産性、景気循環と経済成長
 第2節 ボーモル効果、不均等な成長と新たな経済成長理論
 第3節 プロダクト・サイクルと付加価値成長のメカニズム

第3章[経済循環]セイ・サイクル ー漏出と貨幣の流通速度ー
 第1節 漏出のある「セイ・サイクル
 第2節 漏出からみた「貨幣の流通速度
 第3節 漏出のあるセイ・サイクルで見た経済循環

第4章[貨幣と経済]価格投資 ー金融・資産経済と実体経済+「バブル」ー
 第1節 金融・資産経済と実体経済で異なる市場のメカニズム
 第2節 過剰資本の弊害:先進国の成長、経営の短期志向化
 第3節 実体経済と金融・資産経済の関係のあり方(両者の分離)

第5章[先進国経済]非価格競争 ー先進工業国と非価格競争戦略ー
 第1節 世界経済における先進工業国の意義と直面する課題
 第2節 高付加価値と「非価格競争」
 第3節 非価格競争戦略

第6章[政府]北欧型政府論 ー需要不足と政府支出ー
 第1節 政府と一国経済
 第2節 重不況,短期の不況への対応
 第3節 長期的な需要の趨勢変動と北欧型政府論

補論[経済学理論]フリードマン対ガリレオー経済学の再構築ー
 第1節 理論・仮説の確からしさ
 第2節 「仮定」の妥当性と「仮説」の妥当性
 第3節 科学の発展と「大統一理論」

参考文献

2010年11月25日木曜日

名目では構造改革期に世界シェアを半減させた日本経済

                                                                                ・・・その他《このブログ全体の目次
  修正:グラフだけでなく、少し説明を追加しました25.1.9
関連項目:重不況の経済学 公共事業

1 世界経済に占める(ドル表示で見た)日本の名目GDPの比率は、1997年〜
 2007年の10年間に次のように半減しました。

注1)ドルベースの名目値で比較
注2)1997と2007の為替レート(円ドル)はほぼ同水準

2 原因は、次のように、この10年間にG7の他の各国が経済規模を53%から
 103%拡大させたのに対して、日本は、わずかに1%しか拡大しなかった点に
 あります。・・・これは、一人当たりなので、厳密な経済規模拡大の差はさらに大きいことになります。


3 これは、OECD諸国中の人口一人当たりGDPの日本の順位が小泉構造
 改革期間中に次のようにコンスタントに低下したことに対応しています。
(補足)
円安 なお、小泉構造改革期間中は、円安が進行していましたので(これら
 は比較のためドル表示ですから)この影響もあるわけです。たしかに円高
 が進んだ近年は順位が上昇しています(もっとも、理由は円高だけではないです)
  しかし、上昇も限定的です。その理由は、中段のグラフに見るように、
 日だけが名目GDP成長をまったくしていない点にあります。たしかに
 日本は、この期間に(相対的には)縮んだのです。

物価 もちろん、物価上昇が小さいかマイナスだった点もあります(これら
 のグラフは名目値での比較だからです)。しかし、低い物価上昇率は本来
 であれば、日本の国際競争力の強化に寄与し、日本経済の力強い成長に結
 びつき、高い実質成長が実現したはずですが、まったくそうはなっていま
 せん。・・・いまだにアップアップしてるわけですから。
  物価上昇率が低いかマイナスだったことは、何の意味もなかったし、む
 しろマイナスだったと言えるでしょう。

生産性 一人当たりGDPとは、投入産出の構造から言えば、広い意味で一
 国の「生産性」を意味します。構造改革期間中、企業の人員削減で、生き
 残った企業内の生産性は上昇したかもしれませんが、企業から吐き出され
 た失業者や遊休化した資源の増加によって、日本の国全体の生産性は低下
 しのです。

※2010年11月刊『「重不況」の経済学』(新評論)http://amzn.to/htYtN1 の導入部《第1章》のための図の一部