2014年10月8日水曜日

New Economic Thinking6 クラウディング・アウトは不況下では生じない

New Economic Thinking6
              〜クラウディング・アウトは不況下では生じない〜生じにくい〜

    政府が財政出動の財源として国債を発行すると、債券市場では債券の超過供給となって、債券価格が下落する(=金利を高くしないと売れない。つまり債券の発行金利は上昇する)。すると、民間企業が社債を発行しようにも、高金利でないと売れず、民間企業は、資金調達ができなくなる。つまり、国債の増発が民間の資金調達を圧迫する

   これによって、民間の設備投資が減少し、財政出動の経済効果は民間設備投資の減少で効果が相殺されてしまうというのが、クラウディング・アウトである。

    しかし、リーマン・ショック後の世界同時不況下の先進各国や90年代初頭のバブル崩壊後の日本では、こうした傾向は実際にはみられない(例えば景気循環学会他編[2002]は、90年代から2000年代初頭までは「金利の上昇などのクラウディングアウト現象は起こっていない」と述べている(217))。
         景気循環学会・金森久雄編[2002]『ゼミナール 景気循環入門』東洋経済新報社

    これが生じないメカニズムは、「New Economic Thinking  2で述べたメカニズムによる。すなわち、原因は、財政出動が行われるのは不況期である点にある不況期には、財・サービス市場の需要が低下して、その需要として使われなかった資金は、貨幣市場や債券市場に流入して、これらの市場は超過需要下にある。つまり、貨幣市場、債券市場は、資金があふれている(New Economic Thinking5の中段では、この点について少し詳しくコンパクトに説明している)。これはワルラス法則を厳格に解釈すれば当然のことだ。
    だから、財・サービス市場の需要不足の範囲で国債が発行される限り、債券市場は超過需要下にあり、債券を買うための資金は余っている状況である。したがって、資金は潤沢であり、金利はそもそも上昇しないか、上昇が緩やかになる。このため、民間企業の資金需要が、国債発行で抑圧されることもない。

    つまり、クラウディング・アウト不況下では生じないと考えてよい。

   ただし在庫変動レベルの軽微な景気変動の場合、不況は短期で終わるため、認知ラグや決定ラグで財政出動が遅れて、財政出動の時期が景気の自律的な回復期と重なることが少なくない。すると、確かに、政府と民間の資金需要が競合してクラウディング・アウトは起こり得る。
    しかし、大恐慌、日本の90年代初頭バブル崩壊後の不況、リーマン・ショック後の世界同時不況といった長期停滞を伴う重い不況(拙著では「重不況」と呼ぶ)では、こうした時期のずれは生じない。


    ただし(その2)、以上は、通常の意味でのクラウディング・アウトつまり資金調達上のクラウディング・アウトだ。
    これを財・サービス市場における供給力の政府と民間の取り合いという意味に拡張して使うと、現在の日本では、建設工事の供給制約が強いため、クラウディング・アウト的な現象が生じているようだ。
    これは、日本が、これまで持続的かつ急速に公共投資を削減してきた(公共事業は、95年に比べて半減以下に減少している=「財政出動論32 『財政レジーム』転換と『長期停滞」後段の図3(公的固定資本形成の変化)参照)ため、建設業界は、それに合わせて供給能力を削減してきたことで生じている。
    このため、現在の日本では、経済対策としての財政出動を公共事業の形で行っても、すぐに供給の天井にぶつかり、景気対策としての効果には制約が生じている。
    これは世界の中で日本だけに生じている問題である。だから、仮に、消費税増税で今後の景気状況がさらに悪化しても、対策が限られている状況である。金融政策で対策を取っても、効果が生じるのは1、2年先であることから、取り得る対策は限定されているという状況にある。まあ、財務省や日本の世論の自業自得と言うしかない。