《ブログ全体の目次》 23.11.9修正
佐々木融『弱い日本の強い円 (日経プレミアシリーズ)』では、円高の原因については、 長期的には、日米の物価上昇率の違い、中期的には、日米 の金利差にあると考えているようだ。
ここでは「実体経済」の観点から「強い円」の問題を考えてみよう。
実体経済を中心に考える意義は、一つは為替問題の「ファンダメンタルズ」を構成する重要な要素が実体経済だと考えるからだ。ファンダメンタルズのもう一つの構成要素は「国際資本市場」ということになるが、現代経済学では、一般に資本市場は効率的で実体経済の変動に即応し(資本市場は実体経済に)同調して変動すると考えられているから、これも実体経済を中心に考えて良い理由になる。
(・・・もっとも、国際的な資本市場は、国際的な実体経済を反映する一方で、かなり大きな割合が、各国国内独自の実体経済を反映するので、その意味で、国際的な資本市場が国際間の実体経済を単純に反映すると言い切るには、問題があるかもしれない。しかし、資本市場側からみれば、全体として経常収支の各項目が示している実体経済の動きは十分「ファンダメンタルズ」だと考えて良いだろう)。
こうした意味で、長期では、実体経済の動向が為替レートを決定していると考えてよいと思う。ここでは、こうした観点から長期の問題を考えよう。短期のゆらぎ(というには大きすぎるが)をもたらす資本市場が係わる要因は、ここではあまり考えない。こうした中長期の観点で、しばしば為替レート変動の要因と考えられがちなものとして、その国の国力とか財政赤字とか成長力などがあるが、これらは一時的あるいは部分的に関連があるように見えても、それは疑似相関というべきものだ。長期的には、為替レート変動の要因は、経常収支(その裏返しとしての資本収支)で理解できる。ま、ほとんど同語反復的で当然なのだが。1 輸出立国政策と為替レート
ここでは簡単化のため、内外金利差などの資本市場の影響を中立と考え、輸出入バランスのみで考えてみよう。
為替レートが経済に大きな影響を与える原因として、純輸出(=貿易収支黒字)が各国経済の「需要」として組み込まれているという問題がある。自国通貨が高くなると、輸出が減少し、純輸出も減少する。それは国内企業にとっての需要縮小だから、景気動向に大きな影響を及ぼす。
特に、国内景気が純輸出に大きく依存している国では、自国通貨高は大きな問題である。このため、純輸出を恒常的に高く維持しようとする政策をとる国がある。こうした政策を「輸出立国政策」と呼ぼう。
(1)純輸出維持と資本収支
例えば、仮に資本収支の貸し借りが1,2年以内に解消されなければならないという規制が国際間にあるとしよう。
このとき、資本収支は中長期でプラスマイナスゼロにならなければならないから、貿易収支も、中長期的にプラスマイナスゼロになるように為替レートが自然に調節される《注》。
注)より正確には所得収支などを加えた経常収支で考えるべきだが、ここでは、簡単に
するために「貿易収支」で考える。
このような条件下では、『輸出立国政策』は取り得ない。輸出立国政策を実現するには、本来あるべき為替レート《注》よりも、自国通貨安の状態が継続する必要があるのだ。
注》ここでは、本来あるべき為替レートとは輸出入がバランスするレートである。
注》ここでは、本来あるべき為替レートとは輸出入がバランスするレートである。
(2)輸出代金の自国通貨への換金
純輸出分の輸出代金を輸出企業が全額自国通貨(以下、わかりやすくするために「円」とする)に換金するためには、相手国通貨(以下、ドルとする)を売って円を買うことになる。これは円高をもたらす。純輸出分の輸出代金全額を円に替えて国内で使おうとすると、円買いドル売りで円高が生じ為替レートの変化を通じて資本収支がプラスマイナスゼロになる。このとき、必然的に貿易収支もプラスマイナスゼロになり、純輸出はゼロとなる。そのように為替レートが調節されるのである。純輸出があるとき、その分だけ売上げが上がっているように見えるが、実は、その輸出代金全額を円に交換すると、実は売上げはまったく上がっていなかったことがわかる。
(3)純輸出維持には純輸出分の輸出代金を相手国資産として保有する必要
(2)のようにならないためには、純輸出分の輸出代金をドルのままで相手国に置いておく必要がある。その結果、企業は、海外のドル資産(ドル債権)で代金を受け取ることになる。その金は、国内での円での支払いに使えないので、仮に、純輸出がGDPの5%だとすると、国民は100働いているが、国民が受け取る金額《注》は95しかない。
注》受け取る形は、賃金、株式配当、利子、下請けへの仕入れ・原材料代金(これら
も、結局下請企業の賃金や配当等に分解されていく)などである。
注》受け取る形は、賃金、株式配当、利子、下請けへの仕入れ・原材料代金(これら
も、結局下請企業の賃金や配当等に分解されていく)などである。
純輸出の5%分は、海外債権、海外資産として日本企業のBSには計上されるが、国内には還流しない。配当にも使えないから、結局「内部留保」となる。そして、それは結局、海外工場の建設などに使われ、日本の輸出力を削減する方向に働くことになる。
つまり、純輸出の拡大は、国民の所得を増やすわけではなく(日本企業の所得は増えるが)、国内の内需に寄与しない・・・直接には。
しかし、輸出が拡大を続ければ、企業は、輸出製品を生産するために設備投資を活発化させる。これは、内需に大きく寄与する。2000年代の輸出増加による好景気(ただし実感なき)の原因はこれである。・・・『財政出動論17 財政出動と抑制の30年史概観』の中段参照
(4)政府の為替介入と外貨準備増減
もっとも、企業は、それぞれ独自の経営判断をしている。だから、全額を円に換金する企業もある。そうした企業の換金の程度は、日米の金利差などによって左右される。また、国内が不景気だと、売上減少で国内での支払い資金が不足すれば、企業はドル資産を売却して円に替えようとする。これは円高要因となる。
こうした企業の動きは、為替レートの変動を生む。したがって、政府は、これを安定化し、かつ景気対策として輸出立国政策をとる必要があるなら、円安を維持するために為替に介入し円を売ってドルを買うことになる。買ったドルは「外貨準備増減」として蓄積される。企業が純輸出分の全額を円に換金しても、政府が輸出立国政策をとっているなら、政府がその同額を逆にドルに換金して海外資産を増やすので、全体として国民の所得が純輸出分だけカットされていることは変わらない。
この結果、日本や中国のように、輸出立国政策をとる国の外貨準備は巨額にふくれあがることになる。
(5)円建輸出の増加
では、円建の輸出が増加した場合はどうだろうか。これは支払い側の貿易相手国が日本企業に支払うために外為市場で円買いを行うから、支払い時点で直ちに円高要因になる。今後、円建の貿易が増加していくと、為替レートは、貿易収支をより直接に反映しやすくなるだろう。あとは、内外金利差などの資本市場的な要因で為替レートが左右される程度が高くなる。
(6)所得収支黒字の増加
ここまでは、経常収支の中で貿易収支以外を無視してきたが、特に2000年代に入ると所得収支の黒字が大きくなり目立つようになってきた。これは、当然、円高要因である。
この所得収支黒字の原因は、過去の資本収支の赤字、つまり貿易収支の黒字(純輸出分)で積み増された海外資産(海外投資)がリターンを返すようになってきたことにある。
では、これは、国民にとってよいことだろうか。所得収支の黒字分は、貿易収支の黒字分と合わせて経常収支の黒字となっている。国際収支の構造を見ればわかるように、経常収支の黒字は、資本収支の赤字+外貨準備増減の増の合計と恒等的に一致する。つまり、所得収支の黒字もそのまま海外資産に再投資されている。国内で使おうとすると円高になって、輸出立国が維持できないからだ。所得収支の黒字は、輸出立国政策を続ける限り国内には還流しない。つまり、国民の所得の増加には寄与しないのである。
もちろん、企業のB/Sには載るので、「日本企業」は成長する。だが、「日本経済」にはあまりメリットはない。輸出立国政策を続ける限りは、円高要因であり、政府の為替介入必要額を押し上げる。そして、政府の介入も、どこかの時点で円高を支えきれなくなり、円でみた海外資産の減価を伴いながら(円高の進行に応じて、ある場合には急激に、ある場合には少しずつ、段階的に)為替レートのアンバランスは解消され続けていくことになる。
おそらくは、現実問題として、政府等によるドル買い支えにはある程度の限度と言えるような水準があるだろう。その水準までの枠は、従来は、いわば貿易黒字だけに対応していればよかったものが、所得収支黒字が増えたことで、その対応に食われて、対応可能な貿易黒字の規模が圧縮されつつあると考えられる。
したがって、今後、アバウトには、所得収支の増加分だけ貿易黒字額は圧縮されていかざるを得ない。それは将来は、最終的に貿易赤字が常態となる時代が来ることを意味する。それは、アバウトには企業や産業の責任に帰するような競争力の問題ではないのだ。為替レートの問題なのである。
(6)所得収支黒字の増加
ここまでは、経常収支の中で貿易収支以外を無視してきたが、特に2000年代に入ると所得収支の黒字が大きくなり目立つようになってきた。これは、当然、円高要因である。
この所得収支黒字の原因は、過去の資本収支の赤字、つまり貿易収支の黒字(純輸出分)で積み増された海外資産(海外投資)がリターンを返すようになってきたことにある。
では、これは、国民にとってよいことだろうか。所得収支の黒字分は、貿易収支の黒字分と合わせて経常収支の黒字となっている。国際収支の構造を見ればわかるように、経常収支の黒字は、資本収支の赤字+外貨準備増減の増の合計と恒等的に一致する。つまり、所得収支の黒字もそのまま海外資産に再投資されている。国内で使おうとすると円高になって、輸出立国が維持できないからだ。所得収支の黒字は、輸出立国政策を続ける限り国内には還流しない。つまり、国民の所得の増加には寄与しないのである。
もちろん、企業のB/Sには載るので、「日本企業」は成長する。だが、「日本経済」にはあまりメリットはない。輸出立国政策を続ける限りは、円高要因であり、政府の為替介入必要額を押し上げる。そして、政府の介入も、どこかの時点で円高を支えきれなくなり、円でみた海外資産の減価を伴いながら(円高の進行に応じて、ある場合には急激に、ある場合には少しずつ、段階的に)為替レートのアンバランスは解消され続けていくことになる。
おそらくは、現実問題として、政府等によるドル買い支えにはある程度の限度と言えるような水準があるだろう。その水準までの枠は、従来は、いわば貿易黒字だけに対応していればよかったものが、所得収支黒字が増えたことで、その対応に食われて、対応可能な貿易黒字の規模が圧縮されつつあると考えられる。
したがって、今後、アバウトには、所得収支の増加分だけ貿易黒字額は圧縮されていかざるを得ない。それは将来は、最終的に貿易赤字が常態となる時代が来ることを意味する。それは、アバウトには企業や産業の責任に帰するような競争力の問題ではないのだ。為替レートの問題なのである。
2 実体経済からみた円高要因
こうした点を踏まえて、実体経済からみた円高の要因をあらためて考えてみよう。
「実体経済から見た」通貨の為替レート変動の要因としては、長期的には、「輸出競争力の差」(厳密には経常収支の黒字を稼ぐ力)だと考えるのが自然である。
そして「物価上昇率の差」は、中期的に輸出競争力に反映されることで、間接的に為替レートを左右すると考えられる。また、「金利差」は国際資本市場を通して短期的に資本収支を動かすことで為替レートを左右すると考えられる。
(1)物価上昇率の差と輸出競争力
「物価上昇率の差」は、中期的に、物価上昇率の低い側の国=日本の生産コストを相対的に低くしていくから、日本の輸出競争力は高くなり、それは経常収支黒字を増加する方向に寄与する。
しかし、円高は、それを簡単に解消してしまう。
(2)海外資産の増加と為替レートの不安定化
逆に輸出競争力を維持するためには、円高になっては困るわけで、日本経済は、経常収支黒字分(=資本収支の赤字分として)を海外資産として積み上げ続けざるを得ないことになる・・・つまり経常収支黒字と同額を資本収支赤字で相手国に貸すことで、円高を抑制することになる。
しかし、相手国に貸した海外資産は、経常黒字の継続と共に大きくなっていく。これは為替レート不安定化の原因である。必ずどこかのタイミングで、海外資産の取り崩し(=ドル売りで円買い)で円高が発生する・・・確率が上昇することになる。
(3)生産性上昇率の差と輸出競争力
(1)では「物価上昇率の差」で説明したが、同じことは日本の「生産性の上昇」で経常収支の黒字が増えることでも生ずる。この意味で、物価上昇率の差のみによる説明よりも、その双方(あるいはその他の要因の影響)を含む「輸出競争力の変化」で見る方が、為替レートをよく理解できると考える。
(4)ギリシャ問題
このように、経常収支黒字(=資本収支の赤字)によって海外(ドル)資産が蓄積していくと、一定の頻度で、それを解消しようとする動きが生じる。つまり円高である。それによって、日本は、実質的に、その円高分は「債権を放棄」することになる。
同じことが、ギリシャ問題でも起きている。経常収支赤字(=資本収支黒字)で積み上がったギリシャの対外負債の解消圧力が今回の危機の原因である(財政赤字はその現れの一つにすぎない)。
ただし、ユーロ圏内では同一通貨ユーロを使っているから、日本のように為替レートの調節では「債権放棄」はできない。その代償として、本当の「債権放棄」が必要になっているのである。
日本が円高で実質的に「債権放棄」したように、ドイツは、ギリシャに対して債権放棄をすべきと考える。それは、輸出立国政策を取る国の義務のようなものだと考える。実際、それを選択するしかないのだ。理由は、ユーロの導入でドイツが巨大な恩恵を受けてきたからだ。ドイツは、1991〜2000年の間、経常収支はコンスタントに1%前後の赤字だったが、ユーロが導入された2002年にGDP比で2%程度の黒字になってから、順次経常黒字を増加させ、リーマンショック前の2007年の経常収支黒字はGDP比で7.5%に達した。
その原因は、ユーロの導入である。ユーロが導入されていなければ、ドイツの競争力に応じて為替レートがマルク高傾向となり貿易収支をバランスさせようとする力が働く。ところが、ユーロ導入後は、為替レートの変動による競争力の変動がなくなり、競争力の差が直接経常収支に現れるようになった。
実際、ギリシャの経常収支赤字はユーロを導入した2004年には5.9%だったが、2007年には14.3%の赤字へと拡大している。おおざっぱにユーロ圏の北に位置する各国の経常収支の黒字は増加傾向である一方で、南の各国の経常収支の赤字は増加傾向である。これは南の各国への投資が増加した(資本収支黒字の増加)ことを意味する。ユーロ導入後、こうした南の各国への投資増加はプラスに捉えられ、それによって、実体経済における競争力の低さのために貿易赤字が上昇していたことが覆い隠されていたと考えられる。この意味で、ユーロは現在の制度による限り持続可能でなかったようにも見える。
しかし、このユーロ圏市場によって、ドイツは膨大な利益を得て繁栄を続けていたのである。
その原因は、ユーロの導入である。ユーロが導入されていなければ、ドイツの競争力に応じて為替レートがマルク高傾向となり貿易収支をバランスさせようとする力が働く。ところが、ユーロ導入後は、為替レートの変動による競争力の変動がなくなり、競争力の差が直接経常収支に現れるようになった。
実際、ギリシャの経常収支赤字はユーロを導入した2004年には5.9%だったが、2007年には14.3%の赤字へと拡大している。おおざっぱにユーロ圏の北に位置する各国の経常収支の黒字は増加傾向である一方で、南の各国の経常収支の赤字は増加傾向である。これは南の各国への投資が増加した(資本収支黒字の増加)ことを意味する。ユーロ導入後、こうした南の各国への投資増加はプラスに捉えられ、それによって、実体経済における競争力の低さのために貿易赤字が上昇していたことが覆い隠されていたと考えられる。この意味で、ユーロは現在の制度による限り持続可能でなかったようにも見える。
しかし、このユーロ圏市場によって、ドイツは膨大な利益を得て繁栄を続けていたのである。
かつて第一次世界大戦の巨額の賠償でドイツが苦しんだことを、立場を変えてギリシャに要求している。ギリシャにできないことを要求しても得るものはない。・・・ギリシャの責任は大きいが。
(5)資本市場の「金利差」
最後に『金利差』の為替レートに対する影響を考えよう。これには政策的な要素もあるわけだが、「実体経済」を中心に考える視点からすれば、まさに日本は、長期停滞下にあって、設備投資などの資金需要がないために低金利が続き、金利の非負制約にひっかかっている、ないしはそれに近い状況にあった。
このため、リーマンショック前は、円キャリートレード等で、資本収支の赤字(当然、その裏で経常収支の黒字から輸出の増加)が維持されたため、円安になった。
そもそも日本には強い輸出競争力があったから、本来は徐々に円高が進むべきところだった。ところが、国内経済の長期停滞で国内に資金需要が不足しているために、国内では(名目)低金利が生じ、内外金利差によって資本の流出が維持されたために、輸出に好適な円安が維持されたわけである。
ところが、その後のリーマンショックで、世界経済が停滞に入り海外資本市場の金利が低下して内外金利差が縮小したため、経常黒字(=資本収支赤字)とそれによって蓄積された巨額の海外ドル資産(の円への換金ニーズ)による円買いドル売り圧力が顕在化し、円高になっている。
(6)根本的な問題は日本の輸出競争力の強さ(経常収支黒字)
円高は、このように物価上昇率の差や生産性上昇率の差、内外金利差によって変動するが、根本的な問題は、日本の輸出競争力の強さをバックに資本収支が恒常的に赤字(=経常収支が黒字)であることだ。
そして、それによって積み上がった海外資産は常に円高圧力として存在している。それによる円買いドル売り圧力をさまざまな要因が強めたり弱めたりすることで、為替レートが変動していると考えられるのである。
例えば、上記のリーマンショック前までの円安がそうだし、また、国内の景気が悪くなると円高になる傾向があるというのは、上で書いたように、海外資産を持っている輸出企業が国内の不況で売上が減少すると、その国内売上収入が国内での支払いのための資金ニーズに対して不足し、国内での支払い資金を得るために、海外資産の処分が増加し、それによる円買いドル売りが不況の程度に応じて加速されると考えることができる。
3 以上から何が言えるか
以上のように、実体経済を重視する視点からは、本質的には、日本の輸出競争力が依然として強いことをが根本にあり、それによって生じた海外資産の円換金圧力に影響を与えるいくつかの要因(物価上昇率や金利差)の変動で理解できることがわかる。
(1)物価のコントロールに対する含意
日銀は、物価上昇率を低く抑えて悦にいっている?わけだが、その努力は、結局、間欠的に生ずる円高によって、常に解消されざるを得ないということである。そして、その円高は、予想されない状況で発生し、オーバーシュートも発生しがちなため、輸出関連企業に予期しない打撃を与えることになる。
つまり、過度にインフレ率を抑制することは、為替レートの極端な変動を通じて、経済に必要以上のダメージを与えるということが理解されなければならない。
したがって、インフレ率のコントロールは、主要な貿易相手国のインフレ率を重要な指標として行うべきと考えられる。主要貿易相手国のインフレ率+生産性上昇率の2国間の格差をゼロないしは低く抑えることを目標とすれば、急激な円高によって経済に打撃を与える事態はかなりの程度避けられることになる。
つまり、少なくとも、インフレ率のコントロールに関しては(主要な貿易相手国の動向を考慮したものにするべきで)低ければ低いほどよいという視点自体には大きな問題があると考える。・・・もっとも、相手国が高すぎるインフレ率にあるときには、こうした考え方はできないのだが。
(2)円高問題の解決策は不況対策しかない
(説明するとさらに長くなるので、結論だけ書きます。)
政府は、円高に対しては、為替介入などの対症療法しかしていないが、円高の本質的な問題は、第一に、日本の金利が低いことにあり、その原因は、国内に資金需要がないことにあると考える。その原因は、日本市場に成長の見通しがないために、企業が設備投資を行わないためだと考える。すなわち、不況対策が不十分なことこそが本質的な問題だと考える。
第二の問題は、日本経済がデフレ的状態にあって物価上昇率が低すぎることだ。これは、恒常的に国内の需要が不足していることが原因だと考える。
この二つの問題を解決する方法は、個人的意見としては、財政出動しかないと思う。
イタリア、フランス、スペインなどの危機はもとより、ギリシャ危機は、ECBが無制限の国債買い上げを宣言して実行すれば、解消してしまう。それを妨げているのはドイツだ。ドイツは自国の立場を理解していない。