→財政出動論24C(消費増税に関する8つの問題と誤解)で、このページや財政出動論24をベースに、消費税増税に関する問題を簡単に6つにまとめました。
→財政出動論24(消費税増税の影響)では、97年の消費税増税が「住宅建設」と「四輪自動車国内販売」に与えた影響を見たが、ここでは、典型的な耐久消費財として「家電製品」への影響を見てみる。
・・・結論としては、影響は大きく、かつ明らかに原因は金融危機等ではない。
なお、このグラフは、輸入を含めた国内販売を見ているので、国内企業の国内での競争力などは関係ない。つまり、家電製品の国内需要の変動をそのまま見ている。
気機器」とは、エアコン、扇風機、炊飯器、トースター、電気剃刀、電子レン
ジ、冷蔵庫、掃除機、電気式暖房機具など一般的な家電製品を指す。
これに対して、この統計では、薄型テレビ、家庭用ビデオカメラ、カーナビ、
カーオーディオ、デジカメなどは「民生用電子機器」に分類され、これには含
まれない。
なお、ここでは、在庫変動は無視している。
1 このグラフから、つぎのようなことが言えると思う
① 97年の消費税増税を含む財政緊縮政策によって、家電製品に対する国内需
要は0.4〜0.5兆円程度縮小し、その影響はおおむね恒久的である。
② 2000年代に入って需要はさらに縮小しているが、これは家計所得が伸び
ていないこと、特に家電製品の主な購入層である若者の低所得化(非正規雇用
割合の増加)によるものと思われる。
長期不況下では(特に2000年代に入って)、企業のコストカットの主な
源泉として、雇用の削減、正規社員の非正規労働者置き換えが進められたが、
それによって、企業の製品を買ってくれる若者をはじめとする家計の所得が減
少し、(そうした家計の予算制約で)製品需要が縮小したと考えられる。
90年代初頭のバブル崩壊以後、労働分配率(=人件費/付加価値額)は、
上昇を続けた(これは、企業が景気の回復を待ち続け、雇用を維持し続けたた
めだ)。しかし、2000年前後を境に、企業は売上の回復(需要回復)をあ
きらめ、縮小した国内需要に合わせて、余剰人員の削減に本格的に取り組みは
じめたのである(リストラが盛んに行われた)。この結果、労働分配率は低下
し、次のグラフのように家計の資金余剰(貯蓄)は小さくなった(代わりに企
業の内部留保が増加した)。家計は、家電製品など耐久消費財を買う余裕をな
くしていったと考えられる。
なお、このグラフから明らかなように、家計が消費税増税のショックに耐え
る力の一つとして、家計の貯蓄(=資金余剰)を見ると、現在のその力は97
年の増税当時の①から、②へと明確に低下している。現在、家計の新規貯蓄は、
毎年10〜20兆円程度となっているが、今回の消費税増税で、このうち8兆
円が政府に吸い上げられることになる(初年度である14年度は、このうち5
兆円程度とされる)。・・・・実際は、貯蓄をなるべく維持するために消費が削減
されるだろう。
今後の賃上げで家計の名目所得が3%程度伸びれば影響は小さいかもしれな
いが、それ以下であれば、需要はその分減少し、その減少の大半は、住宅建設、
自動車販売、耐久消費財の縮小として現れると考えられる。
こうした家計の購買力低下は、所得の頭うちないしは低下によるもので、そ
の原因は、合理化、効率化による人件費の抑制・縮小だ(もちろん、その原因
は日本が長期停滞下にあり、そこからの脱却の見通しがないことによるもので、
企業の合理化、効率化への取り組みは合理的と言わざるをえない)。
90年代初頭のバブル崩壊以後、労働分配率(=人件費/付加価値額)は、
上昇を続けた(これは、企業が景気の回復を待ち続け、雇用を維持し続けたた
めだ)。しかし、2000年前後を境に、企業は売上の回復(需要回復)をあ
きらめ、縮小した国内需要に合わせて、余剰人員の削減に本格的に取り組みは
じめたのである(リストラが盛んに行われた)。この結果、労働分配率は低下
し、次のグラフのように家計の資金余剰(貯蓄)は小さくなった(代わりに企
業の内部留保が増加した)。家計は、家電製品など耐久消費財を買う余裕をな
くしていったと考えられる。
なお、このグラフから明らかなように、家計が消費税増税のショックに耐え
る力の一つとして、家計の貯蓄(=資金余剰)を見ると、現在のその力は97
年の増税当時の①から、②へと明確に低下している。現在、家計の新規貯蓄は、
毎年10〜20兆円程度となっているが、今回の消費税増税で、このうち8兆
円が政府に吸い上げられることになる(初年度である14年度は、このうち5
兆円程度とされる)。・・・・実際は、貯蓄をなるべく維持するために消費が削減
されるだろう。
今後の賃上げで家計の名目所得が3%程度伸びれば影響は小さいかもしれな
いが、それ以下であれば、需要はその分減少し、その減少の大半は、住宅建設、
自動車販売、耐久消費財の縮小として現れると考えられる。
の原因は、合理化、効率化による人件費の抑制・縮小だ(もちろん、その原因
は日本が長期停滞下にあり、そこからの脱却の見通しがないことによるもので、
企業の合理化、効率化への取り組みは合理的と言わざるをえない)。
しかし、一社や一業界のみが労働コストを削減して効率化するというなら問
題はないが、全企業が一斉に労働コストの削減で効率化を進めようとすれば、
家計部門全体の可処分所得が抑制され、それは企業の製品を買う家計部門全体
の予算を制約する。その結果、回り回って企業部門全体からみた需要は縮小す
の予算を制約する。その結果、回り回って企業部門全体からみた需要は縮小す
ることになる。まさに、タコが自分の手足を食べるのと同じ、共有地の悲劇と
いうわけだ。
・・・ところが、マクロはミクロの延長としか考えない経済学に毒された、ある
国では、政府が率先して「全企業が合理化による生産性向上を進めるべき」だ
と旗をふっている。政府は自分の役割を理解していない。生産性向上は企業に
まかせればよいのだ。
いうわけだ。
・・・ところが、マクロはミクロの延長としか考えない経済学に毒された、ある
国では、政府が率先して「全企業が合理化による生産性向上を進めるべき」だ
と旗をふっている。政府は自分の役割を理解していない。生産性向上は企業に
まかせればよいのだ。
このほかには、次のようなことが言える。
③ 消費税増税後の落ち込みの大きさはバブル崩壊時に匹敵すること(しかもバ
ブル崩壊時とは異なり、回復していない)。
④ リーマンショックの影響はこれに比べれば軽微なこと。
⑤ 家電エコポイントの(一時的な)効果が明らかなこと。
⑥ 国内生産と国内販売(輸入品を含む)の関係を見ると、2000年度以前は、
国内生産>国内販売で「輸出が超過」していたのに対して、それ以後は逆転し
て「輸入が超過」するようになったこと。
2 明らかにこれには、東アジア通貨危機や国内金融危機の影響はない
消費税増税後の消費等の落ち込みについては、 財政出動論24でふれたように、97年7月の東アジア通貨危機、同年11月の国内金融危機の影響を主張する人達がいる。これについては、消費税増税の影響が最も集中的に現れる住宅建設でそうした影響がみられないことなどを財政出動論24で述べた。
ここでは同じ問題を家電製品で見てみよう。
(1)銀行の融資縮小(貸し渋り)の影響はない
まず、これらの家電製品は、価格帯としては、数千円〜数十万円程度で、自動車に比べて10分の1程度である。したがって、これらを購入するために、わざわざ審査を受けて金融機関から融資を受ける家計はわずかだろう。カードでの購入は少なくないだろうが、この場合は、普通は購入1件毎に一々審査を受けることはない。
つまり、一つ目のグラフで見た家電製品需要の落ち込みには、金融危機等に伴う銀行融資の縮小や貸し渋りなどの影響はまったくないと言える。家電製品購入の落ち込みは、それとは別の原因による消費者自身の判断によるものだ。
(2)消費マインドの低下は疑問
もちろん、不景気を肌で感じ、将来に備えて消費を節約するということはあり得ることではある。消費マインドの低下というわけだ。
しかし、それが「90年代初頭のバブル崩壊」と同レベル以上の家電消費縮小の原因だとはとても思えない。これは、金融危機や通貨危機以上に消費者心理に大きな影響を与えたはずのリーマンショックが実際に国内需要に与えた影響が(一番上のグラフを見ても明らかなように)極めて軽微であることをみれば明らかだろう。
(3)月次の変動を見ても
また、このことは、民生用電気機械の97年の毎月の生産動向を示す次のグラフでも明らかだ。これを見ると、生産はほぼ一直線に低下しているのだ。したがって東アジア通貨危機原因説、国内金融危機原因説つまり「消費増税後、消費は一旦回復したが、その後の7月の東アジア通貨危機や11月の国内金融危機が原因で消費が落ち込んだのだ」という説は成立しないように思える。
参考までに、この民生用電気機械を含む「電気機械工業」全体の生産指数の変動も示したが、これには生産の低下が見られない。これは、電気機械工業全体では、産業用機器のウエイトが極めて高いからだ(7割以上)。つまり、この時点では、設備投資などの産業用需要は東アジア通貨危機や国内金融危機の影響をほぼ受けていないのである。設備投資が急減したのは98年に入ってからである。
明らかに、企業より先に家計が通貨危機や金融危機などの将来の影響を予想して行動を変化させることはあり得ない。通常なら、7月の東アジア通貨危機や11月の国内金融危機などのショックの影響はまず企業が認識して、それが企業の設備投資や雇用削減を引き起こし、それが雇用不安を通じて消費に波及したはずである。ところが現実は、この順序とは全く逆に、まず消費が縮小し、ついで設備投資が縮小していったのである。東アジア通貨危機、国内金融危機原因説は、事実に反する。
すなわち、消費急減の原因は、やはり4月の消費税増税だと考えるのが自然である。(穏当な理解は、消費税増税が消費の縮小をもたらし、それが企業の設備投資に影響する一方、東アジア通貨危機や国内金融危機が金融面からも設備投資縮小の要因となり、両者が重なったことで強い不況が生じたというところかもしれない。しかし、消費税の影響がなく需要が根強ければ、金融危機等の影響は速やかに解消しただろう。)
注)データの出所は、一つ目のグラフと同じ。
《補足》なお、当時は(95年に)はじめて使いものになるWindows(Windows95)が発売され、一挙にインターネットが普及し始めた時期である(それまではMS−DOS、Windowsパソコンによるインターネット利用は一般の利用者にとって技術的にハードルが高かった)。また、この時期は携帯電話の急速な普及が進んだ時期でもあった。
当時、こうしたネットワーク環境が急速に普及しつつあったことで、関連のパソコン等や携帯電話需要が高まり、これらが消費を下支えした。
これらの電子機器は、始めのグラフの注でも述べたように、家電(民生用電気機械)には含まれていない。これらの動向を各月の変化で見ると、必ずしも97年を通じて需要は減少しておらず、どちらかというと、プラス側に需要を下支えする役割を果たした。そのしわ寄せが、住宅、自動車、家電製品などの(民生用電子機器、通信機器以外)耐久消費財に現れたと考えられる。
・・・今回2014年の消費税増税では、こうした需要を支える強い魅力のある製品が存在していないのも心配である。
3 消費税増税の影響は耐久消費財に集中する(財政出動論24からの再掲)
財政出動論24で述べたように、家計の可処分所得が(増税などで)減少した場合、通常は家計は、圧縮が困難な食材や消耗品などの日常生活用品(最寄品)の消費はほぼ変えず、圧縮できなかった分を住宅、自動車などの耐久消費財消費の圧縮でカバーする。
これは、耐久財等は1度買えば何年でも使えるからだ。単に、今年買い換えようと思っていた買い換えの時期を1年か2年先延ばしすればよいのだ。
そして、可処分所得の縮小が恒久的(消費税増税は、それ以後毎年恒久的に家計の可処分所得を縮小させる)であり、さらにその後、賃金のベアなどもほとんどなかったから、家計の所得は伸びていない)なら、その先延ばしは、長くなったまま短くなることはなく、需要縮小は恒久的となる。
家計にとって、同じモノを少し長く使い続けることで不都合はほとんどない。しかし、企業に取っては死活問題だ。そして、それはその後の設備投資抑制や雇用の縮小などにさらに反映され、ますます需要は縮小していくことになった。