《修正履歴》27.6.10 このページの中段「(4)影響の大きい住宅や自動車だけに減税や給付を行っても効果は小さい」の項に、27年4月に消費税増税(税率6%)を行ったマレーシアで、自動車に関する他の税を廃止したことで自動車価格自体は大きくは変わらなかったにもかかわらず、自動車に大きな駆け込み需要とそれ以上の反動減が生じた例を挿入しました。27.5.28 エンゲル係数関係の箇所にわかりやすくるための説明を数行追加。27.5.17 エンゲル係数の推移グラフを(許可を得て)中段あたりに追加しました(家計が総消費支出を抑制する場合、抑制は主に耐久財消費に集中して行われることを(実証的に)示すもの)。25.8.5 7月頃の消費の持ち直し傾向があったとされる件について、住宅投資では持ち直しが見えなかったというコメントを追加。25.7.3上記に(※印以下)数行、日本の成長への影響に対する懸念を追加。25.5.22コンサルタント/シンクタンク各社の消費税増税の影響の推計についてのコメントを末尾に追加。25.5.17①金融危機の影響に関して[ 1の(1)住宅投資 ]に一部説明追加、②駈け込み需要について [1の(5)] を追加、③住宅と自動車で数字を多少精査し修正。25.4.30末尾の補足の補足をリカード中立命題にからめ整理して「3」に。25.4.25末尾の補足を修正。25.4.29自動車取得税廃止付言。25.4.27金融危機の影響の検討充実。25.4.22末尾の補足に追加。25.4.4末尾に「補足」追加。25.4.9要旨追加。25.4.21上記を修正。
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2014年4月に消費税増税が予定されていますが、これは1997年の消費税増税と共通する点が多いため(増税+歳出削減(増税の目的が財政再建なのですから)+家計所得の伸びが停滞していること(これがあと1年でどうなるかですが)など)、経済への負の影響は、かなり大きい(97年レベル)のではないかと思います。そうなる根拠の一端を以下で、書いています。
簡単に言えば(下に要旨もありますが)消費税増税の影響は、住宅や自動車などの特に高額の耐久消費財に選択的、集中的に現れると考えられます。※所得が伸びない中、増税で可処分所得が減ると、生活必需消費が優先され、住宅や自動車などの高額耐久消費財に消費のしわ寄せが集中的に生じ、これらの消費額(投資額)が大きく減少します。これらを含む耐久財分野は、日本経済を支える高付加価値分野であり、成長のエンジンです。成長への影響が心配されます。なお、民間シンクタンク/コンサルタント会社の影響予測(このページの末尾参照)は、どちらかといえば、導入前の駈け込み需要と導入後の反動減に着目するものになっていますが、このページは、主に持続的な影響を対象にしています。
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《要旨》キャシン・宇南山[2011]論文は、97年の消費税増税の消費への影響が3000億円しかないと結論したが、これは、耐久財や住宅投資への影響を見過ごしている。家計等が(消費税増税等による)実質可処分所得の減少に直面するとき、家計の消費支出への影響は品目ごとに異なり、均等ではない。必須性の高い食品や日常生活関連消費はほとんど減少せず、支出の減少は、もっぱら高額で購入頻度の低い耐久消費財や住宅投資に集中して現れる。キャシン・宇南山[2011]には、こうした観点が抜けているため、消費税増税の影響を捉え損なっている。実際、97年の消費税増税の前後で、住宅で4兆円、自動車で1.2兆円程度支出が減少している。これを受けて万一、仮に住宅や自動車を免税にしても、住宅や自動車への支出減少は(ある程度は)免れないだろう。これらの分野には、可処分所得減少のしわ寄せが集中して現れるのであって、住宅や自動車単独の税額増加に反応して支出が減少するのではないからだ。
《本文》
ここでは、2014年4月に予定されている消費増税の影響を見るために、1997年に引き上げられた消費税増税が当時の経済にどのような影響を与えたかを整理する。
《要旨》キャシン・宇南山[2011]論文は、97年の消費税増税の消費への影響が3000億円しかないと結論したが、これは、耐久財や住宅投資への影響を見過ごしている。家計等が(消費税増税等による)実質可処分所得の減少に直面するとき、家計の消費支出への影響は品目ごとに異なり、均等ではない。必須性の高い食品や日常生活関連消費はほとんど減少せず、支出の減少は、もっぱら高額で購入頻度の低い耐久消費財や住宅投資に集中して現れる。キャシン・宇南山[2011]には、こうした観点が抜けているため、消費税増税の影響を捉え損なっている。実際、97年の消費税増税の前後で、住宅で4兆円、自動車で1.2兆円程度支出が減少している。これを受けて万一、仮に住宅や自動車を免税にしても、住宅や自動車への支出減少は(ある程度は)免れないだろう。これらの分野には、可処分所得減少のしわ寄せが集中して現れるのであって、住宅や自動車単独の税額増加に反応して支出が減少するのではないからだ。
《本文》
ここでは、2014年4月に予定されている消費増税の影響を見るために、1997年に引き上げられた消費税増税が当時の経済にどのような影響を与えたかを整理する。
このために、消費税引き上げの決定に一定の影響を与えたと考えられる「内閣府[2011]」報告書で重要な論拠の一つとして取り上げられた、キャシン・宇南山[2011]論文を検討する。
これは、1997年の消費税引上前後の家計調査を元に消費税増税の一世帯当たりの家計消費への影響を評価し、それに全国の世帯数を乗じて、増税の影響が極めて小さい(消費への影響は0.3兆円にすぎない)という結論を導いている。
しかし、影響把握の範囲を狭く限定しているなら、消費税増税の影響が小さいことを証明したことにはならないだろう。
内閣府[2011]『社会保障・税一体改革の論点に関する研究報告書』(平成23年5月30日)
キャシン・宇南山[2011]:Cashin,D. and Unayama,T.(2011)"The Intertemporal Substitution and Income Effects of a VAT Rate Increase: Evidence from Japan" RIETI Discussion Paper Series 11-E-045 (April 2011)
宇南山卓[2011]「経済教室」『日本経済新聞』平成23年10月18日付け・・・キャシン・宇南山[2011]を紹介したもの
1 1997年4月の消費税率引き上げの影響・・住宅・自動車市場の縮小
まず、はじめに住宅市場、ついで自動車市場を見てみよう。
(1)民間住宅投資への影響
重要な問題点として、キャシンらの分析は家計の最終消費支出のみの分析に基づくため、例えば、民間住宅投資の変動がほとんど反映されていないように思われる。
民間住宅投資の変動を国民経済計算でみると(図25)[2]、96年度には(前年度比13.3%増と)駆け込み需要があったと考えられるが、97年度は前年度比18.9%減、98年度はさらに前年度比10.6%減と駆け込み需要の増加率を大きく上回る率で縮小している[3]。駆け込み需要前と増税後を比較すると、需要水準は年間で 4 兆円の規模で縮小している。キャシン・宇南山論文の0.3兆円とは巨額の差がある。
重要な問題点として、キャシンらの分析は家計の最終消費支出のみの分析に基づくため、例えば、民間住宅投資の変動がほとんど反映されていないように思われる。
民間住宅投資の変動を国民経済計算でみると(図25)[2]、96年度には(前年度比13.3%増と)駆け込み需要があったと考えられるが、97年度は前年度比18.9%減、98年度はさらに前年度比10.6%減と駆け込み需要の増加率を大きく上回る率で縮小している[3]。駆け込み需要前と増税後を比較すると、需要水準は年間で 4 兆円の規模で縮小している。キャシン・宇南山論文の0.3兆円とは巨額の差がある。
(1B)金融危機の影響の簡単な検討
これをさらに詳しく、四半期季節調整済み実質GDP統計で住宅投資の変化をみると、97年4〜6月期が前期比11.2%減、7〜9月期7.2%減、10〜12月期4.7%減、98年1〜3月期が0.6%減と、消費税増税直後が最も縮小幅が大きく、以後順に縮小幅が小さくなっており、97年11月に発生した「国内金融危機」の影響は見えない。したがって、住宅市場の巨額の縮小は、国内金融危機の影響とは考えられない。
一方、「東アジア通貨危機」が、国内金融危機に先立つ97年7月に発生している。これについても、上の四半期GDPの動きを見ると、7月をはさんで、4〜6月期、7〜9月期、10〜12月期と順調に減少幅が縮小しているから、外形的には、東アジア通貨危機の影響も見えないのである(・・・消費を全体としてみると、7〜9月期には持ち直しの傾向が見られたと言われているが、増税の影響が集中的に現れると考えられる住宅投資については、そうした持ち直しの傾向は全く見えなかった)。
しかし、こうした2つの金融危機が、金融機関の家計の住宅ローン審査の引き締めにつながり、それが住宅投資を抑制したという見方もあり得る。これについては、こうした諸々の影響を総合した結果が上記の4半期GDPの推移なのだから、すでにそこで答えが出ているとも言えるが、日本の4半期GDP統計は信頼性が若干低いともされるから、あらためて別の観点で考えてみよう。
・・・そこで、当時の日銀の貸出態度DI(これ自体は企業に対する融資態度に関するものではあるが)をみると、それが急落を始めたのが97年の第4四半期からであり、98年第1四半期にほぼボトムに達している。これを上記の住宅投資の変化と比較すると、明らかに、貸出態度DIの急低下は、住宅投資の変化に半年以上遅れて発生している。消費税導入が97年4月、その後GDPの低下が97年前半中心、貸出態度DIの急落が97年末から98年初であり、前後関係がまったく逆である。
実際には、貸出態度の変化は、11月の「国内金融危機」によって引き起こされたと考えられる(のであって、東アジア通貨危機(7月)後の7〜9月期時点では貸出態度の落ち込みは極めて小さい)。
つまり、「東アジア金融危機」によって金融機関の貸出態度が急激に厳格化し、それが住宅投資の縮小をもたらしたとは言えないと思われる。
さらに観点を加えると、この貸出態度DIは、98年第1四半期から1年強低い状態が続いたが、99年半ばには急回復している。ところが、その後も住宅投資は回復していない。しかも、当時、企業部門は資金余剰状態(「財政出動論7 財政赤字・政府累積債務の持続可能性」の中段の図10を見れば、まさに98年に企業部門(非金融法人企業)が、資金不足部門から余剰部門に劇的に!転換していることがわかるだろう)にあり、当時の金融機関は貸出先の確保に窮していたから、企業の設備投資よりもどちらかと言えば融資の安全性の高い住宅融資を絞り続けたとは考えにくい。
加えて、01年3月からは量的緩和政策が導入されたから、住宅融資はさらに潤沢になったはずだが、グラフで見るとむしろ住宅投資は01年から低下している。
金融が緩和されても、需要の増加する見通しがないなら企業は設備投資を行わないが、家計の住宅投資は、自らの満足のために行われるので、設備投資のように需要が低くて採算が取れるかどうかを心配することはない。だから、住宅投資は、設備投資よりもはるかに金融環境の変化に反応するはずである。ところがそれが見られない。これは消費増税による家計の可処分所得の縮小(のしわよせ)を反映していると考えるのが自然だ。
01年以降のさらなる住宅投資の低下は、98年以降進んだ労働分配率低下による家計所得の停滞、窮乏化を反映している可能性があるが、全般として消費税導入後の民間住宅投資は低下したまま固定化しているといえる。
この間、金融環境は変動しているが影響は見えない。家計所得は概ね減少気味だが、大きな変化はない。変化があったのは消費税の2%増税のみである。
単純に考えれば、2%増税で毎年5〜6兆円民間需要が抜き取られている状態が今日まで継続している。これをそのままトレースすると(06年までの)グラフの変化になるように見える。
いずれにせよ、以上は、金融的要因の影響が、ほとんどないことを意味すると考えられる。
すなわち、住宅投資の落ち込みの原因が二つの金融危機のいずれの影響によるとも言えないと考える。宇南山の「東アジア金融危機」が消費落ち込みの原因とする見方(上記の宇南山[2010](日経経済教室))には疑問の余地が大きい。
これをさらに詳しく、四半期季節調整済み実質GDP統計で住宅投資の変化をみると、97年4〜6月期が前期比11.2%減、7〜9月期7.2%減、10〜12月期4.7%減、98年1〜3月期が0.6%減と、消費税増税直後が最も縮小幅が大きく、以後順に縮小幅が小さくなっており、97年11月に発生した「国内金融危機」の影響は見えない。したがって、住宅市場の巨額の縮小は、国内金融危機の影響とは考えられない。
一方、「東アジア通貨危機」が、国内金融危機に先立つ97年7月に発生している。これについても、上の四半期GDPの動きを見ると、7月をはさんで、4〜6月期、7〜9月期、10〜12月期と順調に減少幅が縮小しているから、外形的には、東アジア通貨危機の影響も見えないのである(・・・消費を全体としてみると、7〜9月期には持ち直しの傾向が見られたと言われているが、増税の影響が集中的に現れると考えられる住宅投資については、そうした持ち直しの傾向は全く見えなかった)。
しかし、こうした2つの金融危機が、金融機関の家計の住宅ローン審査の引き締めにつながり、それが住宅投資を抑制したという見方もあり得る。これについては、こうした諸々の影響を総合した結果が上記の4半期GDPの推移なのだから、すでにそこで答えが出ているとも言えるが、日本の4半期GDP統計は信頼性が若干低いともされるから、あらためて別の観点で考えてみよう。
・・・そこで、当時の日銀の貸出態度DI(これ自体は企業に対する融資態度に関するものではあるが)をみると、それが急落を始めたのが97年の第4四半期からであり、98年第1四半期にほぼボトムに達している。これを上記の住宅投資の変化と比較すると、明らかに、貸出態度DIの急低下は、住宅投資の変化に半年以上遅れて発生している。消費税導入が97年4月、その後GDPの低下が97年前半中心、貸出態度DIの急落が97年末から98年初であり、前後関係がまったく逆である。
実際には、貸出態度の変化は、11月の「国内金融危機」によって引き起こされたと考えられる(のであって、東アジア通貨危機(7月)後の7〜9月期時点では貸出態度の落ち込みは極めて小さい)。
つまり、「東アジア金融危機」によって金融機関の貸出態度が急激に厳格化し、それが住宅投資の縮小をもたらしたとは言えないと思われる。
さらに観点を加えると、この貸出態度DIは、98年第1四半期から1年強低い状態が続いたが、99年半ばには急回復している。ところが、その後も住宅投資は回復していない。しかも、当時、企業部門は資金余剰状態(「財政出動論7 財政赤字・政府累積債務の持続可能性」の中段の図10を見れば、まさに98年に企業部門(非金融法人企業)が、資金不足部門から余剰部門に劇的に!転換していることがわかるだろう)にあり、当時の金融機関は貸出先の確保に窮していたから、企業の設備投資よりもどちらかと言えば融資の安全性の高い住宅融資を絞り続けたとは考えにくい。
加えて、01年3月からは量的緩和政策が導入されたから、住宅融資はさらに潤沢になったはずだが、グラフで見るとむしろ住宅投資は01年から低下している。
金融が緩和されても、需要の増加する見通しがないなら企業は設備投資を行わないが、家計の住宅投資は、自らの満足のために行われるので、設備投資のように需要が低くて採算が取れるかどうかを心配することはない。だから、住宅投資は、設備投資よりもはるかに金融環境の変化に反応するはずである。ところがそれが見られない。これは消費増税による家計の可処分所得の縮小(のしわよせ)を反映していると考えるのが自然だ。
01年以降のさらなる住宅投資の低下は、98年以降進んだ労働分配率低下による家計所得の停滞、窮乏化を反映している可能性があるが、全般として消費税導入後の民間住宅投資は低下したまま固定化しているといえる。
この間、金融環境は変動しているが影響は見えない。家計所得は概ね減少気味だが、大きな変化はない。変化があったのは消費税の2%増税のみである。
単純に考えれば、2%増税で毎年5〜6兆円民間需要が抜き取られている状態が今日まで継続している。これをそのままトレースすると(06年までの)グラフの変化になるように見える。
いずれにせよ、以上は、金融的要因の影響が、ほとんどないことを意味すると考えられる。
すなわち、住宅投資の落ち込みの原因が二つの金融危機のいずれの影響によるとも言えないと考える。宇南山の「東アジア金融危機」が消費落ち込みの原因とする見方(上記の宇南山[2010](日経経済教室))には疑問の余地が大きい。
(2)自動車販売への影響
次に自動車販売台数の推移を見てみよう。図26は、国内の四輪自動車(軽四輪を含む)の販売台数推移である。
販売台数は、97年(暦年)が前年比5.0%減、98年は前年比12.8%の減少となり、この2年間で、年間販売台数の水準は95年比で約90万台、94年比で56万台低い水準に移行した[4]。両年の平均を基準に見ると、約73万台の減少である。この自動車でも、需要は 1.2 兆円程度縮小したと考えられる。
販売台数は、97年(暦年)が前年比5.0%減、98年は前年比12.8%の減少となり、この2年間で、年間販売台数の水準は95年比で約90万台、94年比で56万台低い水準に移行した[4]。両年の平均を基準に見ると、約73万台の減少である。この自動車でも、需要は 1.2 兆円程度縮小したと考えられる。
データ出所:日本自動車工業会
(3)なぜ、住宅と自動車で大きな変化が生じたか
なぜ、住宅と自動車でこのように大きな変化が生じたのだろうか。それは家計の行動を見ることで理解できる。
通常、家計が可処分所得の減少や雇用不安などで消費を抑制しようとするとき、真っ先に消費抑制の対象になるのは、住宅や耐久消費財などのように耐用年数が長く、購入頻度が低くて高額な財である。この結果、可処分所得の減少の影響は、住宅や自動車に集中的に現れることになるのである。
この傾向をリーマン・ショック後の米国の消費縮小の例で見ると、消費の縮小は専ら耐久消費財に集中している。具体的には、2008年の第2四半期と第4四半期を比較すると、耐久消費財の10.1%減に対して、日用品や生活必需品の消費は2.8%減に止まっている[5]。ちなみに日本が世界同時不況で、先進国中でもっとも大きな打撃を受けたのは、日本の製造業が、高額の耐久消費財やその高機能部品に特化していたからである。
==平成27年5月17日挿入==
耐久財への影響が大きいことは、エンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合)の変動によっても把握できる。家計が消費支出全体を何らかの理由で抑制しようとするとき、食料費など生活必需的な消費の抑制は困難であれば、支出の抑制は、主に耐久財や住宅投資にしわ寄せされる。このとき、消費支出全体に占める生活必需消費の割合は上昇する。生活必需的な消費のうち食料費は中心的な割合を占めるから、エンゲル係数は、このとき急激な上昇を示すだろう。実際、エンゲル係数は、次の図のように大きく変動した。
と政策」の解説もご参照ください。
なぜ、住宅と自動車でこのように大きな変化が生じたのだろうか。それは家計の行動を見ることで理解できる。
通常、家計が可処分所得の減少や雇用不安などで消費を抑制しようとするとき、真っ先に消費抑制の対象になるのは、住宅や耐久消費財などのように耐用年数が長く、購入頻度が低くて高額な財である。この結果、可処分所得の減少の影響は、住宅や自動車に集中的に現れることになるのである。
この傾向をリーマン・ショック後の米国の消費縮小の例で見ると、消費の縮小は専ら耐久消費財に集中している。具体的には、2008年の第2四半期と第4四半期を比較すると、耐久消費財の10.1%減に対して、日用品や生活必需品の消費は2.8%減に止まっている[5]。ちなみに日本が世界同時不況で、先進国中でもっとも大きな打撃を受けたのは、日本の製造業が、高額の耐久消費財やその高機能部品に特化していたからである。
==平成27年5月17日挿入==
耐久財への影響が大きいことは、エンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合)の変動によっても把握できる。家計が消費支出全体を何らかの理由で抑制しようとするとき、食料費など生活必需的な消費の抑制は困難であれば、支出の抑制は、主に耐久財や住宅投資にしわ寄せされる。このとき、消費支出全体に占める生活必需消費の割合は上昇する。生活必需的な消費のうち食料費は中心的な割合を占めるから、エンゲル係数は、このとき急激な上昇を示すだろう。実際、エンゲル係数は、次の図のように大きく変動した。
グラフの出所:ブログ『経済をよくするって、どうすれば』の平成27年5月10日付け
「貧しくなった日本と政策」のグラフを許可を得て転載(消費税増税などの時期を加筆)
データの出所:総務省家計調査
エンゲル係数の上昇とは、食料費の割合が相対的に増加し、逆に相対的に耐久消費財など食料費以外の支出の割合が減少したことを意味する。消費全体が(消費増税などにより)停滞ないしは減少ぎみの状況でこれが生じたことは、食料費の減少が小さく、食料費以外の支出減少がより大きかったことを意味する。
すなわち、この変動は、家計が(消費増税などを受けて)消費支出全体を抑制した際に、抑制が主に耐久消費財の支出分野に集中した結果、相対的に食料費が消費支出に占める割合が増加したことによって生じたと考えられる。
すなわち、この変動は、家計が(消費増税などを受けて)消費支出全体を抑制した際に、抑制が主に耐久消費財の支出分野に集中した結果、相対的に食料費が消費支出に占める割合が増加したことによって生じたと考えられる。
なお、リーマンショックや東日本大震災時にも、同様の現象が起こっていることがわかる。消費増税は、そのクラスのショックを消費に与えたと言える(2002年の上昇については、ITバブルの崩壊に係わると考えられるが、タイミングが若干後ズレしているようにも見える)。
ア グラフ出所の『経済をよくするってどうすれば』さんの 「貧しくなった日本と政策」の解説もご参照ください。
イ もう一つ、同じく「『経済をよくするって、どうすれば』さんの「5/12の日経」
のエンゲル係数に関する話題に関する拙コメントの内容を以下に上げます。
① 消費への打撃を増幅するエンゲル係数
>過去に行われた3度の消費増税は、いずれもエンゲル係数に大きく悪影響を与えてきた。(「5/12の日経」から)
消費増税に限らず、大恐慌や日本のバブル崩壊、リーマンショックなどの経済危機によって失業のリスクが急上昇し、あるいは実際に失業する場合、将来所得の予想が低下し、家計は消費支出を抑制するだろう。
このとき、家計は、すべての消費を一律に減らすのではなく、選択的に減らすと考えるのが自然だろう。まず、食料品などの生活必需消費を減らすことは困難である。これに対して、耐久消費財や住宅投資は、古いモノを使い続ける期間を延ばすことによって、自分の満足(効用)をそれほど下げずに、全体支出を節約できる。
この結果、現実に、上で見たように、食料品などの生活必需品の消費の減少はわずかであるのに対して、耐久財消費の減少が大きくなるだろう。このことは、大恐慌、リーマンショック時などでも、広く観察されている。
この「食料品などの生活必需品消費の維持」と「耐久財や住宅投資の減少」が組み合わされると、エンゲル係数の上昇が生じると理解出来る。
つまり、エンゲル係数の変動は、こうしたショックによる総消費額の変動を「より増幅して示すものになっている」と考えられる。
しかし、これは、日本の高い技術力を反映した自動車などの耐久財市場を縮小させることを意味するから、消費税増税は、日本経済(日本の高付加価値産業)にとって最悪の選択だと考える。
② 家計の所得の成長予想(期待)が低下したために、増税の影響が大きくなった?
>消費増税は、国民生活を苦しくするのに異様な力を持っており、しかも、成長力が衰えてきたせいか、後になるほど酷くなっているように見える。(「5/12の日経」から)
これは、第一に、家計の経済的な余力の低下(「財政出動論24B 97年消費増税の影響を家電で見る」のページの2枚目のグラフ「日本の部門別資金過不足(家計と企業のみを抽出)」グラフ参照)が原因と考えられる。これを見ると、家計が毎年貯蓄できる額が縮小していることがわかる。とすれば、通常、耐久財や住宅の購入原資は主に貯蓄(ないしは負の貯蓄=借入)なので、耐久財消費は縮小の力を受けざるを得ない。
さらに、第二に、過去長期にわたって所得が伸びない経験をしてきた家計が、今後も所得が伸びないだろうという強い予想(期待)を持っている可能性が高いこともあるだろう。実際「財政出動論33 消費増税の恒久的影響と短期的影響」のグラフの図1でみるように、雇用者報酬は97年前後から横這いになり、20年間にわたってまったく伸びていない。
このグラフを見ると、1989年の消費税導入時は、雇用者報酬が伸びていた時期だから、家計は、伸びる所得を元に(一時的な影響を吸収し)消費を拡大させていったと考えられる。1997年は、まだまだ所得が伸びるものという期待が根強くあった時期だった。だが、2014年増税では、そうした期待は持ちようがなかった。
2014年の家計は、そうした将来所得の悲観的な予想を元に、より一層強く消費支出を調整(抑制)するようになっていると考えられる。すなわち所得に上昇期待がなく、むしろ停滞から低下方向であるために、それをさらに強化する方向に働く消費増税は、さらに消費行動に大きな影響を与えるようになっているのではないだろうか。
==ここまで 平成27年5月17日追加挿入==
(4)影響の大きい住宅や自動車だけに減税や給付を行っても効果は小さい
ここで重要な点は、こうした高額財には、実質可処分所得全体の減少等による消費抑制の影響、しわよせが集中して現れるということであって、こうした大きな影響は、単にその高額財にかかる税額だけに反応して生じるわけではないことだ。増税による可処分所得全体の減少の影響が、主に高額財に集中して現れるということであって、これらの高額な財の消費税額が大きくなったことだけが問題なのではない。
したがって、仮に増税に際して、高額財だけに税率軽減やエコカー減税あるいはエコポイントのような給付が行われても(実際、自動車取得税の段階的廃止が予定されているようだ)、その効果は限定的なものになるだろう。
注)平成27年6月10日追加挿入
このことは、マレーシアの2015年4月の消費税増税でも実証された。2015年6月9
日付日本経済新聞「東南ア、新車低迷一段と 4月上位3カ国販売20%超減」によれ
ば、2015年4月1日に消費税(税率6%)を導入したマレーシアでは、「消費税の導
入と同時に車に課していた別の税金を廃止したため、自動車の価格は大きくは変わ
っていない」にもかかわらず、車の販売台数は、(駆け込み需要が生じて)14%の
増加だった3月の後、4月は一転して23%減となったという。これは、家計の乗用
車購入の判断が乗用車に課される税金の多寡のみに反応しているのではなく、増税
による可処分所得の変動全体に反応していることを意味する。
(5)駈込み需要
2013年1〜3月期の四半期実質GDP成長率が発表され、年率3.5%という高い伸びが示された。これにからんで、消費税増税の駈け込み需要の寄与の可能性も指摘されている。
そこで、97年の消費税増税による「駈け込み需要」を住宅と自動車でみてみよう。グラフに示したように、ざっと民間住宅投資で約3兆円、4輪自動車で0.5〜0.7兆円前後の駈け込み需要があったようにみえる。
もっとも、注意すべきは、当時は阪神淡路大震災復興のための大規模な財政出動が95年にあった(財政出動論17財政出動と抑制の30年史の図1参照)。この影響も考えられる・・・・・・。
2 キャシンらの分析手法の検討
したがって、仮に増税に際して、高額財だけに税率軽減やエコカー減税あるいはエコポイントのような給付が行われても(実際、自動車取得税の段階的廃止が予定されているようだ)、その効果は限定的なものになるだろう。
注)平成27年6月10日追加挿入
このことは、マレーシアの2015年4月の消費税増税でも実証された。2015年6月9
日付日本経済新聞「東南ア、新車低迷一段と 4月上位3カ国販売20%超減」によれ
ば、2015年4月1日に消費税(税率6%)を導入したマレーシアでは、「消費税の導
入と同時に車に課していた別の税金を廃止したため、自動車の価格は大きくは変わ
っていない」にもかかわらず、車の販売台数は、(駆け込み需要が生じて)14%の
増加だった3月の後、4月は一転して23%減となったという。これは、家計の乗用
車購入の判断が乗用車に課される税金の多寡のみに反応しているのではなく、増税
による可処分所得の変動全体に反応していることを意味する。
(5)駈込み需要
2013年1〜3月期の四半期実質GDP成長率が発表され、年率3.5%という高い伸びが示された。これにからんで、消費税増税の駈け込み需要の寄与の可能性も指摘されている。
そこで、97年の消費税増税による「駈け込み需要」を住宅と自動車でみてみよう。グラフに示したように、ざっと民間住宅投資で約3兆円、4輪自動車で0.5〜0.7兆円前後の駈け込み需要があったようにみえる。
もっとも、注意すべきは、当時は阪神淡路大震災復興のための大規模な財政出動が95年にあった(財政出動論17財政出動と抑制の30年史の図1参照)。この影響も考えられる・・・・・・。
2 キャシンらの分析手法の検討
以上に対してキャシンらは、影響は全消費に対して0.3兆円しかないという。彼等の算出方法を見てみよう。まず、消費税が導入されることがわかると、導入前には、駆け込み需要が発生して消費が増加し、導入後は、先食いされた分の需要減少で反動減が生ずる。これを消費の「異時点間代替効果」という。異時点間の代替とは、本来は時間的に均等に生ずる消費の一部が前倒しされて早い時点で消費が増え、逆に将来時点の消費がその分だけ減少することを言う。
この代替効果は一時的なものなので、本来の消費税導入の影響は、この異時点間代替効果の発生以前と終了後の消費水準を比較すればわかることになる。簡単に言えば、その水準の差は、増税による可処分所得の減少が(恒久的に)反映されたものだから、これを「所得効果」という。
ということで、異時点間代替効果の発生と終了を統計的に分析し、その代替効果の発生を96年10月、終了を97年11月と把握し(約1年1箇月)、96年10月直前と97年11月直後の消費水準を比較して影響(所得効果)が約0.3兆円しかなかったとしているのである。
(1)購買頻度の低い財は所得効果がフルに発現するまでに時間が必要である
しかし、この算出方法には問題がある。所得効果自体がフルに生じるには、異時点間代替効果とは別に一定の時間がかかると考えられ、その時間は品目によって異なると考えられるからだ。品目の中には、所得効果の影響がフルに現れるまでに、平均的な異時点間代替効果の収束する期間以上の期間が必要な品目があると考えられる。
しかし、この算出方法には問題がある。所得効果自体がフルに生じるには、異時点間代替効果とは別に一定の時間がかかると考えられ、その時間は品目によって異なると考えられるからだ。品目の中には、所得効果の影響がフルに現れるまでに、平均的な異時点間代替効果の収束する期間以上の期間が必要な品目があると考えられる。
家計の支出は、様々な支出の集合で成り立っている。消費増税で可処分所得が減少した場合、家計が、全ての品目の消費を同率で縮小することはあり得ない。
生活必需品などの日常生活費用の多くは必須性が高く、ほとんど消費を縮小できない。このため、そのしわ寄せで
、耐久消費財や住宅などは、より大きく消費等が縮小することになる(それが上記の耐久消費財と日用品などの影響の違いとして現れる)。こうした消費財間のバランスの調整プロセスは、現実に可処分所得の縮小を受けて体験的に調整されていくのであって、それには時間がかかると考えるのが自然だ。
そして、その調整プロセスの長さは品目によって違うはずだ。必須性が高い食料品や日常消耗品などの消費が早期に確定する一方で、購買頻度の低い耐久消費財や住宅などは、それら必須性の高い品目の消費動向を判断材料に、遅れて調整されていくと考えられる。
例えば、家計が住宅の購入を計画する場合、通常、住宅ローンの元利償還の原資には毎月の生活費の残余を充てる計算になる。当然、その額は、圧縮が困難な必須性の高い日常生活費によって圧迫されるが、どの程度それが圧縮できないかがわかるまでには、ある程度の生活期間が必要になる。
また、住宅ローンの返済計画は、ボーナスなどを含めた年間で計算される。住宅ローン償還に充て得る原資が年間でどの程度になるかは、年単位の収支、少なくとも一年程度は消費税増税後の家計の運営を経験しないと、多くの家計は把握できないだろう。
したがって、主として日常の消費を中心に検出された一年程度の異時点間代替効果の期間では、住宅投資や耐久消費財の中でも自動車などの特に高額の耐久消費財などに関する消費税増税の所得効果の全部は実現していないと考えられる。恒久的な増税の影響(所得効果)が現れるには、少なくとも二、三年程度の期間が必要と考えられる(実際、上記の2つのグラフがそのことを示している)。したがって、その前後で比較されるべきだ。
この結果、キャシンらの手法では、住宅や自動車などの高額の財への消費税増税の影響の多くが脱落したと考えられる。また、そもそも、住宅投資に関しては、家計調査では影響をほとんど把握できない。
以上のとおり、消費税増税の影響は、住宅投資や自動車などの高額の耐久消費財等に集中的に現れると考えられるが、それはキャシンらの分析ではほぼ把握できない。
(2)転嫁、設備投資その他
このほかに、①バブル崩壊後の需要不足下で増税が行われたために、供給側の企業の一部は、必ずしも家計に消費税全額を転嫁できなかった可能性もある。
このほかに、①バブル崩壊後の需要不足下で増税が行われたために、供給側の企業の一部は、必ずしも家計に消費税全額を転嫁できなかった可能性もある。
さらに、②住宅や自動車の需要の縮小は関連産業の設備投資にも大きな影響を与えたと考えられる。③それに加えて緊縮財政の影響があったと考えられる。また、④98年前後から労働分配率が低下し、一般家計の所得が低下ないしは停滞した影響もあるだろう。
97年の消費増税は、歳出の削減と同時に行われ、消費税増税で吸い上げられた税収は、政府支出としては使われない部分が少なくなかった。これは、増税で民間需要を削減する一方で、政府による需要の増加(政府支出の増)を行わなかったのだから、総需要が縮小し、大不況が生じたのは当然のことである。これは、マクロ的な需要の計算から単純に導かれることであり、需要不足下での増税の影響としては何ら驚くべきことは生じなかったと言える。
したがって、2014年4月の増税に際して、増税による税収増を政府歳出の増加に充てず、97年と同様に財政再建に充てることになれば、その時点で経済が好況の状態にない限り、97年と同様にかえって財政を悪化させる可能性が強い。
・・97年の橋本財政改革の結末については「財政出動論4 橋本財政改革」参照。
《補足》
なお、これは、逆に言えば、増税で吸い上げたお金を、政府がそのまま全額財政出動の増加に使えば、増税もマクロ的には総需要には影響を与えないと言っていることになる。これは、一般に使われている意味とは少し違うように見えるかもしれないが「リカード公債中立命題」と整合的なのである。
ただし、これは「マクロ的」に言えるだけであり、ミクロでは業界単位で大きな影響が出る。具体的には、住宅関連業界と自動車業界、さらには耐久消費財関連業界も大きな打撃を受ける。これらの業界の犠牲の上にプラスになる業界や人もある。
3 なぜ、このように大きな影響が生じたか?《リカード公債中立命題をからめ》
以下を考える際に、政府の税財政政策と需要の関係をみるとわかりやすい。
政府が増税を行うと、民間の消費や投資に使われるはずのお金が吸い上げられる。例えば、5兆円の増税を行えば、民間の経済主体の支出できる予算は5兆円減少するから、(好況期には)民間需要は5兆円減少する。これに対して、政府が支出可能な予算は5兆円膨張するから、政府がその5兆円の全額を公共事業や政府消費に使えば、政府需要は5兆円増加する。この結果、経済全体の需要全体は、プラスマイナスゼロである。このとき、増税は景気に中立ということになる(マクロ的にはである。現実には税制などでいろいろ影響。以下同様)。
(なお、需要については例えば「財政出動論6B 需要不足対策の評価」参照)
しかし、政府が財政再建のために(増税5兆円のうち)3兆円しか使わなかったとしよう。すると、政府による需要への寄与は2兆円減少することになる。しかし、このとき、2兆円分は国債発行を縮減できるから、この分、民間の予算制約は縮小する。したがって、(好況期なら)民間需要は2兆円増加するから、経済全体の需要はプラスマイナスゼロであり、問題はない。
==== ==== 以下しばらく飛ばしてかまいません ==== ====
国債発行の減少の影響には説明がいるかもしれない。そもそも、国債発行は、増税と同様に民間の資金を吸い上げるから、その分は民間が消費などに使えるお金が減少する。つまり、民間支出の予算を制約することは増税と同じである。これがリカードの公債中立命題である。実は、このように「予算制約」で考えれば、リカードの中立命題は容易に理解できる。なにも、国債償還時の未来の増税が現在の消費に与える影響といったものを考える必要はない。
国債には所有権があるから、増税とは違う思われるかもしれない。例えば、それを担保にお金を借りて消費や投資を行うことが出来るとか・・・。これはミクロで見ればそのとおりだ。
しかし、その金を貸す別の経済主体の支出可能な予算が今度は制約される。つまり、予算制約のある経済主体が別の主体に替わるだけで、誰かの支出予算が制約されていることはかわりがない。つまり、マクロで(経済全体で)みれば、国債発行が、増税と同様に、民間支出の予算を制約することは違いがない。だから、リカードの中立命題が言うように、公債発行と増税は等価なのである。
このように見ると、公債(国債)も、その時点の民間の支出予算を制約しているという点で、増税とかわりがないのだから、公債発行が将来世代に負担を転嫁するというのも誤りである。
注)将来世代への負担転化論について、野口悠紀雄氏は次のように述べている。
「国債が負担を将来に転嫁するという誤解・・・国債が内国債である限り、負担
を直接に将来に移すことはできない・・・復興財源をめぐる議論で、経済学者の
中にもナイーブな誤りにとらわれている人が多いことがわかって私はショック
を受けた。」・・・野口氏の認識は正しいと思う。
(野口悠紀雄[2012]『消費増税では財政再建できないー「国債破綻」回避へのシナリオ』ダイヤモンド社77〜79頁)
発行時点(である現時点)で、民間支出の「予算が制約」されているという意味で、現在世代はすでに政府の財政出動に対して「負担」をしているのである(「負担」とは、予算の制約以外の何ものでもないのだから)。負担済みのものを将来世代に転嫁する必要はないし、できるわけもない。
(「未来の」ではなく)現在の「予算制約」は、現在の消費や投資を強力に制約する。それに比べれば、「未来の増税予想」などの制約の影響力はゴミである。
バローに始まる議論では、「未来に予想される国債償還のための増税予想が、それに備えた貯蓄を促し現在の消費を抑制する」とされ、多くの実証研究が重ねられてたが、それは(国債発行で、発行時点である現在の民間資金が吸い上げられることで生ずる)現在時点での資金面の「予算制約」の影響を、未来の増税予想の影響と取り違えてきたのである。
そして、この「未来の増税予想に基づく現在の消費縮小論」に基づいて国債発行を縮減すれば消費や投資が増えて景気が拡大するという「拡張的緊縮」仮説は、ヨーロッパで悲惨な大不況と失業の拡大を生みだしている(「財政出動論23 リーマン後4年間の財政金融政策」の中段以下など参照)。
このヨーロッパの壮大かつ悲惨な実験では、緊縮財政で国債発行が減少すると将来の増税負担の減少予想が安心を生み、それが消費や投資を増大させるという効果(=拡張的緊縮論の想定するメカニズム)は、確認されず(つまり、民間の消費や投資は増えず)、政府支出の縮小による総需要の縮小のみが顕在化し、それがそのまま、悲惨な不況として現実化しているのである。これは、少なくとも、現在のような重不況下では、「将来の増税予想」などは現実の行動としては現れず、効いているのは「現在の予算制約」であるということを示している。
では、公債発行と増税が等価であるとき、公債発行による財政出動は意味がないのだろうか。たしかに好況では意味がない。むしろ、非効率な政府消費や投資を縮小して、民間の消費や投資に任せた方がよい。
しかし、不況では状況がまったく異なる。不況では、民間の消費や設備投資が減少して、資金が需要として使われないまま、余っているからだ。これは、「財政出動論22 貨幣流通速度と不況期資金余剰」で、その一端を明らかにした。
この結果、そうした余剰資金を吸い上げて、政府が公共投資や政府消費で政府需要を拡大すれば、それがそのまま、総需要の拡大につながる。需要として使われていないお金を政府が吸い上げて、政府が使うことで需要を作りだしたからだ。
民間の需要が縮小しているときに、誰かが需要を拡大しなければ、経済全体の需要は小さいままである。現実の不況下で、企業は需要の将来見通しが低下して、設備投資ができない。家計は雇用不安で消費が増やせない。残るのは、採算を度外視できる「政府」か、国内の景気と関係がないかもしれない「外需」しかない(「財政出動論6B 需要不足対策の評価」参照)。
このとき、増税又は国債発行で、民間の資金を吸い上げて、その全額を財政出動で使えば、民間では使われない資金が(政府によって)使われることで、需要が増加する。
一方、増税又は国債で資金を吸い上げてもその全額を使わなければ、国債発行を少なくできる。財政再建である。国債発行が少なくなれば、新規発行に比べて償還が少なくなるから、トータルで民間からの資金の吸い上げ量は縮小する。民間資金は潤沢になる。ところが、それは、(好況時には企業が借りて設備投資に使うからよいが)重い不況では民間では使われないから、政府需要は減少する一方で民間需要は増えない。つまり、総需要は減少する。
政府需要の変化が経済に無関係であるという議論は、需要不足が生じていない好況期には概ね正しいが、需要不足がある不況期には正しくない。
以上の観点も踏まえ、なぜ、97年の増税では大きな影響が生じたかを考えて見よう。それには、消費税を導入した1989年と1997年の増税時の政府の税財政政策を比較するとわかりやすい。
(2)1997年の消費税増税(3%→5%)
◎ 国の税財政政策は直接、97年の国内需要を 5.1兆円 減少させた。
・・・これは直接的な効果であり、そのまま上記の住宅投資+自動車の減少の合計になるというものでもないが、水準としては同水準である。
(3)1989年と1997年の比較から
このように、政府の税財政が民間経済へ与える影響を見ると、89年と97年の消費税増税は、全く異なる方向性を持つ税財政政策がとられていたことがわかる。
89年にはマクロでは経済に負の影響がまったくない対策がとられていたが、97年は大きな負の影響を経済に与える政策が採用されたのである。
この項(「2」)の冒頭で述べたように、増税相当額を政府がそのまま歳出増に使えば、好況期には「マクロ的には総需要には影響を与えない」(これはマクロ的には「消費税は景気に中立」ということ)が、不況期に増税分を財政再建に使って政府歳出増に使わないなら、景気はその分だけ、悪化する。・・・「消費税は景気に中立」となるための条件が満たされていないからである。すなわち上記(2)では、これが満たされていない一方、(1)では満たされている。
97年の消費増税は、歳出の削減と同時に行われ、消費税増税で吸い上げられた税収は、政府支出としては使われない部分が少なくなかった。これは、増税で民間需要を削減する一方で、政府による需要の増加(政府支出の増)を行わなかったのだから、総需要が縮小し、大不況が生じたのは当然のことである。これは、マクロ的な需要の計算から単純に導かれることであり、需要不足下での増税の影響としては何ら驚くべきことは生じなかったと言える。
したがって、2014年4月の増税に際して、増税による税収増を政府歳出の増加に充てず、97年と同様に財政再建に充てることになれば、その時点で経済が好況の状態にない限り、97年と同様にかえって財政を悪化させる可能性が強い。
・・97年の橋本財政改革の結末については「財政出動論4 橋本財政改革」参照。
《補足》
なお、これは、逆に言えば、増税で吸い上げたお金を、政府がそのまま全額財政出動の増加に使えば、増税もマクロ的には総需要には影響を与えないと言っていることになる。これは、一般に使われている意味とは少し違うように見えるかもしれないが「リカード公債中立命題」と整合的なのである。
ただし、これは「マクロ的」に言えるだけであり、ミクロでは業界単位で大きな影響が出る。具体的には、住宅関連業界と自動車業界、さらには耐久消費財関連業界も大きな打撃を受ける。これらの業界の犠牲の上にプラスになる業界や人もある。
3 なぜ、このように大きな影響が生じたか?《リカード公債中立命題をからめ》
以下を考える際に、政府の税財政政策と需要の関係をみるとわかりやすい。
政府が増税を行うと、民間の消費や投資に使われるはずのお金が吸い上げられる。例えば、5兆円の増税を行えば、民間の経済主体の支出できる予算は5兆円減少するから、(好況期には)民間需要は5兆円減少する。これに対して、政府が支出可能な予算は5兆円膨張するから、政府がその5兆円の全額を公共事業や政府消費に使えば、政府需要は5兆円増加する。この結果、経済全体の需要全体は、プラスマイナスゼロである。このとき、増税は景気に中立ということになる(マクロ的にはである。現実には税制などでいろいろ影響。以下同様)。
(なお、需要については例えば「財政出動論6B 需要不足対策の評価」参照)
しかし、政府が財政再建のために(増税5兆円のうち)3兆円しか使わなかったとしよう。すると、政府による需要への寄与は2兆円減少することになる。しかし、このとき、2兆円分は国債発行を縮減できるから、この分、民間の予算制約は縮小する。したがって、(好況期なら)民間需要は2兆円増加するから、経済全体の需要はプラスマイナスゼロであり、問題はない。
==== ==== 以下しばらく飛ばしてかまいません ==== ====
国債発行の減少の影響には説明がいるかもしれない。そもそも、国債発行は、増税と同様に民間の資金を吸い上げるから、その分は民間が消費などに使えるお金が減少する。つまり、民間支出の予算を制約することは増税と同じである。これがリカードの公債中立命題である。実は、このように「予算制約」で考えれば、リカードの中立命題は容易に理解できる。なにも、国債償還時の未来の増税が現在の消費に与える影響といったものを考える必要はない。
国債には所有権があるから、増税とは違う思われるかもしれない。例えば、それを担保にお金を借りて消費や投資を行うことが出来るとか・・・。これはミクロで見ればそのとおりだ。
しかし、その金を貸す別の経済主体の支出可能な予算が今度は制約される。つまり、予算制約のある経済主体が別の主体に替わるだけで、誰かの支出予算が制約されていることはかわりがない。つまり、マクロで(経済全体で)みれば、国債発行が、増税と同様に、民間支出の予算を制約することは違いがない。だから、リカードの中立命題が言うように、公債発行と増税は等価なのである。
このように見ると、公債(国債)も、その時点の民間の支出予算を制約しているという点で、増税とかわりがないのだから、公債発行が将来世代に負担を転嫁するというのも誤りである。
注)将来世代への負担転化論について、野口悠紀雄氏は次のように述べている。
「国債が負担を将来に転嫁するという誤解・・・国債が内国債である限り、負担
を直接に将来に移すことはできない・・・復興財源をめぐる議論で、経済学者の
中にもナイーブな誤りにとらわれている人が多いことがわかって私はショック
を受けた。」・・・野口氏の認識は正しいと思う。
(野口悠紀雄[2012]『消費増税では財政再建できないー「国債破綻」回避へのシナリオ』ダイヤモンド社77〜79頁)
発行時点(である現時点)で、民間支出の「予算が制約」されているという意味で、現在世代はすでに政府の財政出動に対して「負担」をしているのである(「負担」とは、予算の制約以外の何ものでもないのだから)。負担済みのものを将来世代に転嫁する必要はないし、できるわけもない。
(「未来の」ではなく)現在の「予算制約」は、現在の消費や投資を強力に制約する。それに比べれば、「未来の増税予想」などの制約の影響力はゴミである。
バローに始まる議論では、「未来に予想される国債償還のための増税予想が、それに備えた貯蓄を促し現在の消費を抑制する」とされ、多くの実証研究が重ねられてたが、それは(国債発行で、発行時点である現在の民間資金が吸い上げられることで生ずる)現在時点での資金面の「予算制約」の影響を、未来の増税予想の影響と取り違えてきたのである。
そして、この「未来の増税予想に基づく現在の消費縮小論」に基づいて国債発行を縮減すれば消費や投資が増えて景気が拡大するという「拡張的緊縮」仮説は、ヨーロッパで悲惨な大不況と失業の拡大を生みだしている(「財政出動論23 リーマン後4年間の財政金融政策」の中段以下など参照)。
このヨーロッパの壮大かつ悲惨な実験では、緊縮財政で国債発行が減少すると将来の増税負担の減少予想が安心を生み、それが消費や投資を増大させるという効果(=拡張的緊縮論の想定するメカニズム)は、確認されず(つまり、民間の消費や投資は増えず)、政府支出の縮小による総需要の縮小のみが顕在化し、それがそのまま、悲惨な不況として現実化しているのである。これは、少なくとも、現在のような重不況下では、「将来の増税予想」などは現実の行動としては現れず、効いているのは「現在の予算制約」であるということを示している。
では、公債発行と増税が等価であるとき、公債発行による財政出動は意味がないのだろうか。たしかに好況では意味がない。むしろ、非効率な政府消費や投資を縮小して、民間の消費や投資に任せた方がよい。
しかし、不況では状況がまったく異なる。不況では、民間の消費や設備投資が減少して、資金が需要として使われないまま、余っているからだ。これは、「財政出動論22 貨幣流通速度と不況期資金余剰」で、その一端を明らかにした。
この結果、そうした余剰資金を吸い上げて、政府が公共投資や政府消費で政府需要を拡大すれば、それがそのまま、総需要の拡大につながる。需要として使われていないお金を政府が吸い上げて、政府が使うことで需要を作りだしたからだ。
民間の需要が縮小しているときに、誰かが需要を拡大しなければ、経済全体の需要は小さいままである。現実の不況下で、企業は需要の将来見通しが低下して、設備投資ができない。家計は雇用不安で消費が増やせない。残るのは、採算を度外視できる「政府」か、国内の景気と関係がないかもしれない「外需」しかない(「財政出動論6B 需要不足対策の評価」参照)。
このとき、増税又は国債発行で、民間の資金を吸い上げて、その全額を財政出動で使えば、民間では使われない資金が(政府によって)使われることで、需要が増加する。
==== ===== とばしてよいのはまあ一応この辺まで===== =====
政府需要の変化が経済に無関係であるという議論は、需要不足が生じていない好況期には概ね正しいが、需要不足がある不況期には正しくない。
以上の観点も踏まえ、なぜ、97年の増税では大きな影響が生じたかを考えて見よう。それには、消費税を導入した1989年と1997年の増税時の政府の税財政政策を比較するとわかりやすい。
(1)1989年の消費税導入(0→3%)
消費税は1989年に導入されたが、このとき景気は好況であり、バブル期で現在とはまったく異なった状況にあった。このとき消費税収は3.3兆円だったが、かわりに物品税が廃止され2兆円余りの減税があった(物品税は、主として高額品が対象だったので、自動車などでは大幅な減税が行われた)。
その一方で、政府部門の歳出を国民経済計算で見ると、前年度に比べて4.5兆円増加していた。
つまり、国民の可処分所得を削り民間需要を縮小させる増税は差引1.3兆円に過ぎず、一方で政府消費及び公共事業で政府需要は4.5兆円増加したのである。したがって、単純計算だが需要の増減は「民間消費減1.3兆円+政府需要増4.5兆円なので」
◎ 国の税財政政策は直接、89年の国内需要を 3.2兆円 増加 させた。
・・・このほかにさらに所得税減税などもあった。
・・・このほかにさらに所得税減税などもあった。
(2)1997年の消費税増税(3%→5%)
これに対して、1997年の消費税増税では、政府による消費税の増収見込みが5兆円弱だった一方、政府部門の支出(国民経済計算ベース)は、公的固定資本形成中心に1.9兆円の減少(決算額)だった。
つまり、当時の橋本財政改革では、国民の可処分所得を削り、民間消費に負の影響を与える増税が5兆円(ただし予定額であり、実際の税収は3.2兆円増)だったが、さらに同時に政府の需要を1.9兆円削減したので、単純計算だが需要の増減は「民間消費減3.2兆円+政府需要減1.9兆円だから」
◎ 国の税財政政策は直接、97年の国内需要を 5.1兆円 減少させた。
・・・これは直接的な効果であり、そのまま上記の住宅投資+自動車の減少の合計になるというものでもないが、水準としては同水準である。
(3)1989年と1997年の比較から
このように、政府の税財政が民間経済へ与える影響を見ると、89年と97年の消費税増税は、全く異なる方向性を持つ税財政政策がとられていたことがわかる。
89年にはマクロでは経済に負の影響がまったくない対策がとられていたが、97年は大きな負の影響を経済に与える政策が採用されたのである。
この項(「2」)の冒頭で述べたように、増税相当額を政府がそのまま歳出増に使えば、好況期には「マクロ的には総需要には影響を与えない」(これはマクロ的には「消費税は景気に中立」ということ)が、不況期に増税分を財政再建に使って政府歳出増に使わないなら、景気はその分だけ、悪化する。・・・「消費税は景気に中立」となるための条件が満たされていないからである。すなわち上記(2)では、これが満たされていない一方、(1)では満たされている。
すなわち、97年のように消費税増税の一方で、財政再建のために政府歳出を絞るなら、絞る程度に応じて97年のような大不況が生じる可能性が強い。
(4)シンクタンク・コンサルタント各社の2014消費税増税影響予測について
コメントは3点。
たしかに、これらについては、一定の根拠があると考えられる。しかし・・・
第二は、各社の推計の枠組みは「消費税増税の影響」の範囲に止まり、増税の影響に限定した推計なのである。たしかに、増税による増収を、政府がどの程度支出の増加に反映するかは、現時点では不明だから、影響を推計することはできない。したがって、これは当然とも言える。
しかし、マクロ経済的に見れば、増税の影響は、[増税によって抜き取られた家計の可処分所得減少による]民間需要の減少と、[民間から増税によって抜き取って増加した政府収入をどの程度支出の増加に反映したかによる]政府需要の増加の2つを合わせて、総需要がどのように変化するかから推計されるべきである。合計がプラスマイナス・ゼロなら影響は比較的小さいと考える(もちろん、民間需要の需要品目構成と政府需要のそれとは異なるから、短期的には、製品分野間の調整に係わる軋轢は避けられない)。
本ページで見た住宅や、自動車の需要の変動は、こうした総需要の変化を反映したものと(一応)考えられる。・・・これに対して各社の推計は、多分、政府支出増減による政府需要の変動は考慮せずに、消費税増税のみの影響を推計しているにすぎない。
したがって、本ページでは、2014年の消費税増税の影響の推計ではなく、97年の影響結果に検討をとどめている。財政再建のために97年と同じような政府歳出の抑制を行えば、影響は決して小さくないと考えるだけである。
なお、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「駆け込み需要に関する前回の経験を踏まえれば影響は小さい」という議論については・・・
前回97年は、駆け込み需要を自律的な景気回復だと取り違えて過少に捉え、したがってその反動減の規模を過小評価したことが、在庫の積み上がりやその後の生産調整問題を大きくし、それが反動減からの回復を長引かせたということは納得できる。しかし、上記の住宅と自動車のグラフに示されている巨額の「落ち込み」には、過剰在庫や生産調整の影響は、反映されていない。売れた結果だけが表示され、売れずに在庫となって積み上がった分は表示されないからだ。
一方、「反動減からの回復」を見ると、現実には回復はわずかであり、ほとんどないと見ることすら可能である。もっとも、4輪自動車の内の「乗用車」の例(注[4]参照)を見ると、4〜5年かかって反動減から駆け込み需要前の水準まで回復しているようにも見える。これを基準に考えれば、確かに(これを教訓として反動減の規模を過少に評価しないならば)、回復に4〜5年もかかることはないかもしれない。しかし、よくて2〜3年に短縮とか、そういうレベルの話ではないだろうか。そのように改善してすら、ダメージは、決して小さくないと思われる。
(このほか)耐久財の輸入比率の上昇は、それほど大きいようには見えないし、耐久消費財でも輸入品の方が低価格品が多いと考えれば、「調整される」のは安価な輸入品ではなく、むしろ国内製の高額品ということになる。
[3] このほか、①キャシン・宇南山[二〇一一]論文では、内閣府[二〇一一]にふれられている「携帯電話の普及」によるサービス消費の(恒久的)押し上げが控除されていないようにみえる。②また、内閣府[二〇一一]では、二〇〇〇年代の増税や海外の例が挙げられているが、景気後退期と景気上昇期の区別がされていない。景気後退期と景気上昇期で増税の影響はかなり違うと考えるのが本書の基本的視点である。
[4] なお、「乗用車」の販売台数は、九九年から緩やかに回復し〇三年には、九六年の水準を一旦抜いたが〇四年からは再び低下に転じるという経過をたどった。〇四年以降の低下は家計所得の伸び悩みを反映している可能性がある。
[5] 実質GDP(二〇〇五年連鎖価格季節調整済み)統計(米国商務省Bureau of Economic Analysis)による。
===
◎最後に、もし、この内容に係わる何かについて(特にペーパーに)書かれる場合は、参照文献として拙著『日本国債のパラドックスと財政出動の経済学』(新評論、2013)を上げていていたければ幸甚です(なお、このページだけでなく、このブログの「New Economic Thinking(新しい経済学)シリーズ」に書かれていることは、ほぼこの本に書かれています。また、「財政出動論シリーズ」に書かれていることの大半も同様です)。