この頁をベースに拡張しして平成25年10月10日に新著『日本国債のパラドックスと財政出動の経済学』(新評論 →→紹介ver.2、紹介ver.1、アマゾン))を出版しました。
《ブログ全体の目次》
さて、リーマンショックが起きたのが2008年9月15日で、今が2012年9月ですから、ちょうど4年が経過したことになります。以下では、その4年間に明らかになったことを簡単に整理してみます。
1 金融政策の4年間
リーマンショック後、世界同時不況が始まったが、当初は、FRBなどが大胆な金
融政策を行っているため、大恐慌や日本の長期停滞のようにはならないという見方が
強かった。
最近のNHKのインタビューでスティグリッツは、次のように言っている。
「この危機が始まった時、全てのアメリカ人が『我々は日本の二の舞には ならない』
と言っていた。・・・それで、我々はどうなった、日本の二の舞になっている。」
訳出典:道草 http://econdays.net/?p=7140
原文:NHK Biz 番組サイトの飯田キャスターブログ http://www.nhk.or.jp/bizplus-blog/100/128979.html#more
(7/31/2012 Joseph Stiglitz, Professor at Columbia University)
FRBの議長は、すでにベン・バーナンキだった。彼は、プリンストン大学教授
時代から、日本の長期停滞の原因は日本銀行の金融政策が不十分な点にあったとす
る、日銀批判の急先鋒だったし、大恐慌研究の専門家でもあったから、バブル崩壊
で生じた世界同時不況問題への対応には、これ以上の人材はないと考えられていた。
(1)バーナンキ指導下のFRBの大胆な金融緩和、量的緩和、信用緩和政策によって、
次のような効果が現れた。
① 当初のシステミック・リスクは比較的速やかに解消した。
② 金融部門は、速やかに回復した。
③ 米国経済はデフレには陥らなかった。
しかし、金融以外の実体経済の回復に関してはほとんど成功していない。
④ GDPの水準は、かつてのトレンドとはほど遠い低い水準で推移している。
⑤ 失業率は極めて高い水準にとどまっている。
(2)金融政策には限界があると認識するようになった中央銀行関係者
現在の中央銀行関係者の評価は、次のようである。もちろん、米国の連邦準備制度
の金融緩和政策が不十分であるという声は根強い。しかし、 十分な効果を実現するの
に「必要なレベル」が当初考えられていたよりも、はるかに高い水準だったというこ
とは間違いないだろう。
◎ 金融政策の有効性には限界がある
①「効かない金融政策:ジャクソンホールの謎」
英エコノミスト 2012年9月8日
「中央銀行はなぜ政策が成功しないのか不思議に思っている。
特定の病気に関する世界最高の専門家たちが、難治性の深刻な症例を研究するために会合を開い
たと想像してみてほしい。彼らは互いに矛盾する診断と治療を行った。だが、彼らの 心を絶えず苦
しめているのは、ある当惑する事実だ。自分たちがやったことが何一つうまくいか ず、なぜうまく
いかないのか分からないのだ。
この描写が、カンザスシティ連銀が主催し、世界中の中央銀行総裁やエコノミストが出席する、
ワイオミング州ジャクソンホールで行われた年次経済シンポジウムでの雰囲気を要約している。」
訳出典JB Press http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36083
原文 The Economist http://www.economist.com/node/21562177
②「米国のQE3、高いコストと心理的効果に要注意」
英フィナンシャル・タイムズ 、2012年9月20日
英フィナンシャル・タイムズ 、2012年9月20日
「米国のデューク大学は今月、大企業887社のCFO(最高財務責任者)に金利低下にどのように対
応するか尋ねた。その結果は、・・・調査対象者の約91%が、金利が1%低下しても事業計画には影
響がないと答え、84%の人が、2%の金利低下に対してさえ関心がないと述べたのだ。
調査は『CFOたちは、金融面の対策が特に効果的なわけではないと考えている』と
結論付けていた。つまり、投資や雇用を増やすという観点から見て効果的でない、
ということだ。・・・
地区連銀総裁が相次ぎ異例の発言
『FRBがやることは、どんなことも一時的な効果しかない』。セントルイス連銀の
ジェームズ・ブラード総裁は先日、ロイターに対してこう語った。一方、ダラス連
銀のリチャード・フィッシャー総裁は9月19日の力強い講演で次のように述べてい
る。
『FOMCの委員の誰も、本当の意味で、何が景気回復を阻んでいるのか分かってい
ない。経済を回復軌道に戻すうえで何が有効なのか誰も分かっていない。雇用を創
出し、民間設備投資を拡大させて消費と最終需要を喚起してくれることを我々が期
待している層は、理論が示すほどには我々(FRB)の政策に反応してくれていない
』」 By Gillian Tett
訳出典:JB Press http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36164
原文 FINANCIAL TIMES http://www.ft.com/intl/cms/s/0/fc517d2e-033d-11e2-bad2-00144feabdc0.html#axzz27oYYa5SQ
※なお、QE3(Quantitative Easing program 3)とは米国の金融の量的緩和第3弾の
ことで、今年9月に実施された。また、FRBとは米国の中央銀行である連邦準備
制度理事会( Federal Reserve Board) のこと。FOMCとは、FRBの下で金融政策を
決定する連邦公開市場委員会 (Federal Open Market Committee)のことで、FRBの7人
の理事と11人の地区連邦準備銀行総裁のうちの5人(輪番制で交替)で構成され
る。ただし、輪番から外れている残りの地区連銀総裁6人も、議決権はないが常
に出席し議論に参加する。
結論付けていた。つまり、投資や雇用を増やすという観点から見て効果的でない、
ということだ。・・・
地区連銀総裁が相次ぎ異例の発言
『FRBがやることは、どんなことも一時的な効果しかない』。セントルイス連銀の
ジェームズ・ブラード総裁は先日、ロイターに対してこう語った。一方、ダラス連
銀のリチャード・フィッシャー総裁は9月19日の力強い講演で次のように述べてい
る。
『FOMCの委員の誰も、本当の意味で、何が景気回復を阻んでいるのか分かってい
ない。経済を回復軌道に戻すうえで何が有効なのか誰も分かっていない。雇用を創
出し、民間設備投資を拡大させて消費と最終需要を喚起してくれることを我々が期
待している層は、理論が示すほどには我々(FRB)の政策に反応してくれていない
』」 By Gillian Tett
訳出典:JB Press http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36164
原文 FINANCIAL TIMES http://www.ft.com/intl/cms/s/0/fc517d2e-033d-11e2-bad2-00144feabdc0.html#axzz27oYYa5SQ
※なお、QE3(Quantitative Easing program 3)とは米国の金融の量的緩和第3弾の
ことで、今年9月に実施された。また、FRBとは米国の中央銀行である連邦準備
制度理事会( Federal Reserve Board) のこと。FOMCとは、FRBの下で金融政策を
決定する連邦公開市場委員会 (Federal Open Market Committee)のことで、FRBの7人
の理事と11人の地区連邦準備銀行総裁のうちの5人(輪番制で交替)で構成され
る。ただし、輪番から外れている残りの地区連銀総裁6人も、議決権はないが常
に出席し議論に参加する。
2 財政政策の4年間
(1)財政政策は景気とは無関係だと考えられるようになっていた
かつては、1930年代の大恐慌からの回復は、財政政策の成果と考えられていた。しかし、その
後、フリードマン=シュウォーツ[1963](一部邦訳:久保恵美子訳[2009]『大収縮1929-1933
「米国金融史」第7章』日経BP社)を嚆矢として、大恐慌の原因や回復の要因として金融面の影響
が重視されるようになった。1970年代以降は、新古典派経済学が復活し、ケインズ経済学は影響
力を失った。ケインズの観点を引き継いだニューケインジアンのDSGEモデルでも、財政政策の
効果が大きく出ないということもあった(・・・これには理由があると考える)。
この結果、景気対策としての財政政策は有害無益で、景気対策としては金融政策しかないと主張
する人びとが勢力を得るようになっていた。
◎ 大蔵省主計局調査課長の例 1996年
① 「財政と景気は全く関係がないのでございます」
(2003年12月刊)132-133頁
(岩田規久男学習院大学教授と八田達夫東大教授の対談で構成された本の中での八田氏の証言)
ーケインジアンのモデルが、リーマン・ショック後の状況に対して有効性を失ったことなどから、
各国で、比較的大規模な財政出動が行われた。特にGDP比で最大規模の財政出動を行ったのは
中国で、中国は、その後の世界経済を牽引した。
もし、ヨーロッパが以下にふれるようなバカな財政緊縮病にとりつかれなければ、世界経済は、
その後、順調に回復していただろう。2012年秋の現在、中国経済が息切れの兆候を現している。
ヨーロッパがおかしなことをしていなければ、中国も、さらに拡大を続けることができたはずだ
と思う。
(3)「拡張的財政緊縮政策」への支持拡大
ところが、その後、財政出動で各国政府の累積債務が巨額化したことから、財政緊縮政策が支
持を集めるようになった。その理論的根拠として「非ケインズ効果」仮説がある。これは、財政
緊縮政策が将来の増税などに対する人々の不安を打ち消すことになり、それに関連する効果によっ
て消費などが刺激され、経済が回復、拡張していくという仮説で、財政再建を主張する人びとは、
これを支持するハーバード大のアレシナ=アルダーニャ[2009]などの研究に飛びついた。
※ アレシナ=アルダーニャ[2009]:Alesina,A. and S. Ardagna,2009,Large changes in fiscal
2010年当時、特に、こうした非ケインズ効果仮説などに基づく「拡張的財政緊縮政策」がヨ
ーロッパ各国の政治家や政策官僚を支配するようになった。これは、財政緊縮政策を行えば景
気が回復するというものだ。
◎ ジャン=クロード・トリシェ・・・当時、ユーロ圏中央銀行である欧州中央銀行
(ECB)総裁だったトリシェは、2010年に、財政緊縮政策は景気に悪影響を与えないと断
言した。
① 「緊縮財政により景気が減速することはない=トリシェ」
ロイター、2010年7月9日
「[フランクフルト 9日 ロイター]欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は9 日、ユーロ圏の各国
政府がほぼ同時に進めている大幅な歳出削減が景気を減速させるとの 見方を否定した。
・・・総裁はECBウォッチャー向けの会合で講演し「ECBは歳出削減が経済成長を損ねるとの見方
にまったく同意しない」と述べた。」
出典:ロイター http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnTK041099320100709
総会 (ダボス会議)出席を前にウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じ、財政
政策とインフレに対する自身の強硬路線を擁護した。緊縮財政を堅持し、・・・ユーロ加盟国は今
年、トリシェ総 裁が繰り返し訴えてきたように、軒並み緊縮策を実施する見通し。同総裁は
「他の先進国経済に教えを垂れるのはわたしの仕事ではない」と 述べた。欧州では、財政規律
は「家計、企業、投資家、預金者の信頼感を改善」し、成長や雇用創出に寄与するという。
・・・欧州が緊縮財政に軸足を置くことについては、国際通貨基金(IMF)のほか、最近では国連が
先週、「計画中あるいは進行中の緊縮財政の影響で(欧州が)あらためて景気低迷に陥るリスク
がある」と警告するなど、疑問視されている。
しかし、トリシェ総裁はこれを否定し、「財政政策の健全化が成長を阻害するとの単純な
理論は信じない」と述べた。」
出典:ウォール・ストリート・ジャーナル http://jp.wsj.com/Finance-Markets/node_175169/?nid=NLM20110124
(4)ヨーロッパの財政緊縮政策の帰結
2012年5月現在のヨーロッパ各国の失業率を見ると、英国8.0%、フランス10.1%、イタリア
10.5%、ドイツ5.5%、アイルランド14.7%、スペイン24.8%、ポルトガル15.5%、ギリシャ23.1%、
ラトビア15.9%など(参考米国8.2%、日本4.4%)。
これらの中で2011年1月に比較して直近で失業率が改善した国はドイツとラトビアのみ(米国と日
本も改善している)。ただし、ラトビアは改善したといっても15.9%。EU圏全体では、2011年1月
の9.5%から2012年7月の10.4%へ0.9%ポイント悪化。ユーロ圏全体では10.0%から11.3%へと1.3%ポ
イント悪化した。
また5月現在の25才以下の失業率は、英国21.7%、フランス22.9%、イタリア34.9%、ドイツ8.0%、
アイルランド29.5%、スペイン52.5%、ポルトガル37.4%、ギリシャ53.8%、ラトビア29.4%などで
ある(出典:Eurostat)。
失業率8%程度の米国で、雇用が大統領選で重要な争点となっていることを考えれば、ヨーロッ
パ各国の水準がいかに高いかがわかる。スペインやギリシャの失業率は、大恐慌期の米国の水準に
達している。
◎ ヨーロッパの景気動向を例示すれば、次のとおり。
① 「ユーロ圏、一段と早まる景気減速ペース」
フィナンシャル・タイムズ、 2012年9月21日
っている。・・予想より悪いデータが出たことで、ユーロ圏のGDPが今年、2四半期連続で縮小し、
(1)財政政策は景気とは無関係だと考えられるようになっていた
かつては、1930年代の大恐慌からの回復は、財政政策の成果と考えられていた。しかし、その
後、フリードマン=シュウォーツ[1963](一部邦訳:久保恵美子訳[2009]『大収縮1929-1933
「米国金融史」第7章』日経BP社)を嚆矢として、大恐慌の原因や回復の要因として金融面の影響
が重視されるようになった。1970年代以降は、新古典派経済学が復活し、ケインズ経済学は影響
力を失った。ケインズの観点を引き継いだニューケインジアンのDSGEモデルでも、財政政策の
効果が大きく出ないということもあった(・・・これには理由があると考える)。
この結果、景気対策としての財政政策は有害無益で、景気対策としては金融政策しかないと主張
する人びとが勢力を得るようになっていた。
※なお、フリードマン=シュウォーツ[1963]:Friedman,M.&A. J.Schwartz[1963] A Monetary History
of the United States,1867-1960,Princeton Univ.Press.
◎ 大蔵省主計局調査課長の例 1996年
① 「財政と景気は全く関係がないのでございます」
出典:岩田規久男・八田達夫[2003]『日本再生に「痛み」はいらない』東洋経済新報社
(岩田規久男学習院大学教授と八田達夫東大教授の対談で構成された本の中での八田氏の証言)
「八田 ・・・1996年秋のことですが、大蔵省(当時)から私にお声がかかりました。どうせ八田
は消費税反対といい出すだろうから・・・釘を刺しておこうと考えたのでしょう。・・・その日の
は消費税反対といい出すだろうから・・・釘を刺しておこうと考えたのでしょう。・・・その日の
午後には、主計局調査課長の『ご説明』を受けました。・・・その課長は、『最新の経済学の理
論では、ケインズ経済学は死んだということになっております。財政と景気はまったく関係が
ないのでございます』という んですね。大蔵省は、1997年の増税に際して、主税局も主計局
も本心から、景気に対する対策をまったくしていなかったと思いますね。」
※ちなみに、こうした思考は、現在でも引き続き財務省を支配していると考えられる。
(2)リーマンショック後の財政出動
しかし、リーマン・ショックによって、新古典派経済学の正統を引き継ぐ「新しい古典派」、そ
の中でも、有力だったRBC理論や、RBC理論にケインズ経済学的な価格硬直性を導入したニューケインジアンのモデルが、リーマン・ショック後の状況に対して有効性を失ったことなどから、
各国で、比較的大規模な財政出動が行われた。特にGDP比で最大規模の財政出動を行ったのは
中国で、中国は、その後の世界経済を牽引した。
もし、ヨーロッパが以下にふれるようなバカな財政緊縮病にとりつかれなければ、世界経済は、
その後、順調に回復していただろう。2012年秋の現在、中国経済が息切れの兆候を現している。
ヨーロッパがおかしなことをしていなければ、中国も、さらに拡大を続けることができたはずだ
と思う。
(3)「拡張的財政緊縮政策」への支持拡大
ところが、その後、財政出動で各国政府の累積債務が巨額化したことから、財政緊縮政策が支
持を集めるようになった。その理論的根拠として「非ケインズ効果」仮説がある。これは、財政
緊縮政策が将来の増税などに対する人々の不安を打ち消すことになり、それに関連する効果によっ
て消費などが刺激され、経済が回復、拡張していくという仮説で、財政再建を主張する人びとは、
これを支持するハーバード大のアレシナ=アルダーニャ[2009]などの研究に飛びついた。
※ アレシナ=アルダーニャ[2009]:Alesina,A. and S. Ardagna,2009,Large changes in fiscal
policy: taxes versus spending. NBER Working Paper No. 15438, October 2009
・・・この研究については、その後、研究手法上の問題や、対象としたデータの範囲(含める
べきデータが除外され、含めるべきでないデータが誤って含まれている)の問題が指摘され
ている。また、そもそも、こうした効果を実証的に否定する研究も出ている。
2010年当時、特に、こうした非ケインズ効果仮説などに基づく「拡張的財政緊縮政策」がヨ
ーロッパ各国の政治家や政策官僚を支配するようになった。これは、財政緊縮政策を行えば景
気が回復するというものだ。
◎ ジャン=クロード・トリシェ・・・当時、ユーロ圏中央銀行である欧州中央銀行
(ECB)総裁だったトリシェは、2010年に、財政緊縮政策は景気に悪影響を与えないと断
言した。
① 「緊縮財政により景気が減速することはない=トリシェ」
ロイター、2010年7月9日
「[フランクフルト 9日 ロイター]欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は9 日、ユーロ圏の各国
政府がほぼ同時に進めている大幅な歳出削減が景気を減速させるとの 見方を否定した。
・・・総裁はECBウォッチャー向けの会合で講演し「ECBは歳出削減が経済成長を損ねるとの見方
にまったく同意しない」と述べた。」
出典:ロイター http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnTK041099320100709
② 「緊縮財政の堅持と物価上昇警戒が重要」
ウォール・ストリート・ジャーナル、2011年1月24日
「【フランクフルト】欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、今週の世界経済フォーラム年次ウォール・ストリート・ジャーナル、2011年1月24日
総会 (ダボス会議)出席を前にウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じ、財政
政策とインフレに対する自身の強硬路線を擁護した。緊縮財政を堅持し、・・・ユーロ加盟国は今
年、トリシェ総 裁が繰り返し訴えてきたように、軒並み緊縮策を実施する見通し。同総裁は
「他の先進国経済に教えを垂れるのはわたしの仕事ではない」と 述べた。欧州では、財政規律
は「家計、企業、投資家、預金者の信頼感を改善」し、成長や雇用創出に寄与するという。
・・・欧州が緊縮財政に軸足を置くことについては、国際通貨基金(IMF)のほか、最近では国連が
先週、「計画中あるいは進行中の緊縮財政の影響で(欧州が)あらためて景気低迷に陥るリスク
がある」と警告するなど、疑問視されている。
しかし、トリシェ総裁はこれを否定し、「財政政策の健全化が成長を阻害するとの単純な
理論は信じない」と述べた。」
出典:ウォール・ストリート・ジャーナル http://jp.wsj.com/Finance-Markets/node_175169/?nid=NLM20110124
(4)ヨーロッパの財政緊縮政策の帰結
2012年5月現在のヨーロッパ各国の失業率を見ると、英国8.0%、フランス10.1%、イタリア
10.5%、ドイツ5.5%、アイルランド14.7%、スペイン24.8%、ポルトガル15.5%、ギリシャ23.1%、
ラトビア15.9%など(参考米国8.2%、日本4.4%)。
これらの中で2011年1月に比較して直近で失業率が改善した国はドイツとラトビアのみ(米国と日
本も改善している)。ただし、ラトビアは改善したといっても15.9%。EU圏全体では、2011年1月
の9.5%から2012年7月の10.4%へ0.9%ポイント悪化。ユーロ圏全体では10.0%から11.3%へと1.3%ポ
イント悪化した。
また5月現在の25才以下の失業率は、英国21.7%、フランス22.9%、イタリア34.9%、ドイツ8.0%、
アイルランド29.5%、スペイン52.5%、ポルトガル37.4%、ギリシャ53.8%、ラトビア29.4%などで
ある(出典:Eurostat)。
失業率8%程度の米国で、雇用が大統領選で重要な争点となっていることを考えれば、ヨーロッ
パ各国の水準がいかに高いかがわかる。スペインやギリシャの失業率は、大恐慌期の米国の水準に
達している。
◎ ヨーロッパの景気動向を例示すれば、次のとおり。
① 「ユーロ圏、一段と早まる景気減速ペース」
フィナンシャル・タイムズ、 2012年9月21日
「ユーロ圏の民間部門の経済活動が2009年6月以来の急激な縮小を見せ、欧州中央銀行(ECB)
の無制限の国債購入計画が信頼感を高め、単一通貨圏の成長再開を後押しするとの期待を裏切っている。・・予想より悪いデータが出たことで、ユーロ圏のGDPが今年、2四半期連続で縮小し、
域内経済が3年間で2度目の景気後退に陥ることを示す兆候が増えた。ユーロ圏のGDPは4~6月
期に0.2%縮小している。・・・『ユーロ圏の減速は9月に勢いを増し、域内経済が過去3年間で最
悪の四半期に見舞われたことを示唆している』。PMIのデータを集計している金融情報会社マー
クイットのチーフエコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏はこう話す。」
訳出典:JB Press http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36161
② 「躓く英国経済:二番底入り」 英エコノミスト 2012年5月2日
「テクニカルな定義では、英国景気は二番底に陥った。二番底入りは1970年代以来の事態だ。
金融危機の前と比べて、ポンドの実効為替レートが20%下がったにもかかわらず、貿易が好転
してGDPを底から救い出すこともなかった。・・・
財政引き締めの影響を相殺できなくなった金融緩和
イングランド銀行は自らの政策金利については記録的に低いレベルを維持し、量的緩和によっ
て経済に資金を供給しているにもかかわらず、金融緩和でタイトな財政政策の影響を相殺できな
くなっているのだ。」
訳出典:JB Press http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35116
◎ ポール・クルーグマンは、ニュー・ヨーク・タイムズの最近のブログで、次の
ように述べている。
① 「クルーグマン「楽観論の秘薬」」 NYT、2012年9 月23日
「さかのぼって2010年のこと、ヨーロッパ諸国が債券市場をなだめすかそうと厳しい緊縮
プログラムを実行に移しだしたころ、政策担当者たちはたいていこうした緊縮プログラムが不
況を深める作用をするのを否定してい たものだった。『緊縮策が景気停滞の引き金になりか
ねないという説は正しくありません』と主張したのは、ジャン=クロード・トリシェ、当時の
欧州中央銀行総裁だった。なんで正しくないっての?彼によると、こうした 緊縮策は「家計
・企業・投資家の安心感を高める」からって話だった。
期に0.2%縮小している。・・・『ユーロ圏の減速は9月に勢いを増し、域内経済が過去3年間で最
悪の四半期に見舞われたことを示唆している』。PMIのデータを集計している金融情報会社マー
クイットのチーフエコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏はこう話す。」
訳出典:JB Press http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36161
② 「躓く英国経済:二番底入り」 英エコノミスト 2012年5月2日
「テクニカルな定義では、英国景気は二番底に陥った。二番底入りは1970年代以来の事態だ。
金融危機の前と比べて、ポンドの実効為替レートが20%下がったにもかかわらず、貿易が好転
してGDPを底から救い出すこともなかった。・・・
財政引き締めの影響を相殺できなくなった金融緩和
イングランド銀行は自らの政策金利については記録的に低いレベルを維持し、量的緩和によっ
て経済に資金を供給しているにもかかわらず、金融緩和でタイトな財政政策の影響を相殺できな
くなっているのだ。」
訳出典:JB Press http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35116
◎ ポール・クルーグマンは、ニュー・ヨーク・タイムズの最近のブログで、次の
ように述べている。
① 「クルーグマン「楽観論の秘薬」」 NYT、2012年9 月23日
「さかのぼって2010年のこと、ヨーロッパ諸国が債券市場をなだめすかそうと厳しい緊縮
プログラムを実行に移しだしたころ、政策担当者たちはたいていこうした緊縮プログラムが不
況を深める作用をするのを否定してい たものだった。『緊縮策が景気停滞の引き金になりか
ねないという説は正しくありません』と主張したのは、ジャン=クロード・トリシェ、当時の
欧州中央銀行総裁だった。なんで正しくないっての?彼によると、こうした 緊縮策は「家計
・企業・投資家の安心感を高める」からって話だった。
当時、ぼくはこういう言い分を「安心感の妖精さん」信仰だってこき下 ろしてた。で、当然
ながら緊縮プログラムは実際にヨーロッパで広く大恐慌レベルの経済の転落をもたらすことに
なった。」
出典:訳「道草」 http://econdays.net/?p=7125
原文:Krugman: The optimism cure ,By Paul Krugman, The New York Times Posted: 09/26/2012 http://www.dailycamera.com/opinion-columnists/ci_21628964/krugman-optimism-cure (5)ゼロ金利下で財政政策の有効性が高まるという研究の増加 現在の世界同時不況、日本の長期停滞、1930年代の世界大恐慌で出現したような、流 動性の罠ないしはそれに近い「ゼロ金利下」の状況では、財政政策の有効性が高まると いう研究が現れてきている。 ① たとえば
② IMFの世界経済見通し(WEO) IMFは、毎年2回、春(4月)と秋(9月か10月)に「世界経済見通し」(World Economic Outlook (WEO))を出している。 その最新版が10月に出された。その第1章で従来の「財政乗数」が過少に見積もられ
IMFのWEOのページ(全文ダウンロード可能):World Economic Outlook october 2012
だが、どうやら、日本の財務省は、依然として「財政と景気はまったく関係がないの でございます」と考えているようだ。 |