〜マンデル=フレミング・モデルは、不況下では実態と異なる結果を導く〜
→(関連)New Economic Thinking 2
改訂:280211 中段で、不況下では、財・サ市場での需要不足に対応して(ワルラス法則にしたがって)超過需要が生ずる市場は貨幣・債券市場であること、したがって、マンデル=フレミングモデルの不況下の財政出動の影響分析の出発点には問題がある点の説明を詳しくした(挿入)。261202 注がわかりにくかったので書き直し 261022 実証研究について注を追加。
このことについては、すでに「New Economic Thinking 2」でふれたが、単独の項目として再掲しておく。
マンデル・フレミング・モデルは、資本取引が自由化されている(開放経済の)小国で財政出動が行われると、そのための国債発行で国内の資金需要が上昇して国内の債券市場では債券
このため、海外から資金が流入して自国通貨高となるため、輸出が減少し、それが財政出動の効果を相殺してしまう。したがって、財政出動には効果がないという結論になる。
ところが、こうしたことは、長期停滞下の日本や、リーマンショック後の先進国では、実際には観察されていない。また、過去の実証研究は、好況期と不況期の区別がないものが多い
注)例えば、軍事支出の影響を対象としたバロー=レドリック(Barro & Redlick
[2010])。軍事支出は、好況か不況かに無関係に支出が増減するから、不況
下での財政出動の影響とは異なる結果になる。
Barro ,Robert J. and Charles J. Redlick [2010] Macroeconomic Effects from
Government Purchases and Taxes,mimeo.
2)また、軽微な景気変動下では、財政出動のラグ(認知、決定、執行のラグな
ど)で、タイミングが遅れるため、景気拡大と財政出動のタイミングが重なる
場合が少なくない。すると、景気拡大〜好況期に財政出動が行わてしまい、そ
の影響が取り込まれてしまう。
原因は、財政出動が行われるのは不況期である点にある。不況期には、財・サービス市場の需要が低下して、その需要として使われなかった資金は、貨幣市場や債券市場に流入して、これらの市場は超過需要下にある。つまり、貨幣市場、債券市場は、資金があふれている。
これは、ワルラス法則に従えば当然のことだ。
注)債券市場が超過需要で、資金があふれているとは、債券の買い手が多いのに
債券の供給=新規発行が不足している状況・・・「New Economic Thinking 2」
参照。
ワルラス法則は、財・サービス市場で需要不足があれば、他の市場で同規模の超過需要が存在しなければならないことを意味する。
念のためあらためて(「New Economic Thinking 2」や「New Economic Thinking11」の中段「◎重不況(大恐慌、リーマンショック後の金融危機・世界同時不況など)では」の項などと重なるが)「他の市場」がどこかを考えてみよう。財・サービス需要が不足すれば、企業は生産を縮小する。したがって、労働市場も需要不足(労働需要が不足し失業が増加)となるから、それは労働市場ではない。労働市場の需給は、基本的に財・サービス市場と同一方向に変動している。
また、不況になれば、企業は、取引先企業の倒産や銀行側の貸し渋りなどのリスク増大に備えて、資金を流動性の高い状態で保有しようとする。したがって、資金を固定するような(資金が急に必要になったとき、すぐには売れない。すぐに売ろうとすると買いたたかれる)土地市場に資金は置かない。こうした状況に即座に対応できる、最も流動性の高い資産の保有形態は、貨幣であり、それについで債券である。
一方、財・サービス市場で需要不足が発生している状況では、企業の売上見通しは低下する(不況である)から、株式市場は値下がり傾向となる。つまり、株式市場も対象ではない。
つまり、財・サービス市場の需要不足に対応して(ワルラス法則に従って)超過需要が生ずる市場とは、貨幣市場か債券市場なのである。財・サービス市場で需要不足があるとき、ワルラス法則に従って、貨幣市場、債券市場では超過需要が発生している状況なのである。
ところが、マンデル=フレミング・モデルでは、財政出動の影響を検討する際に、貨幣市場は需給均衡状態から出発する。このモデルの出発点の仮定は、ワルラス法則に反している。
なお、こうした貨幣・債券市場の(出発点での)需給均衡の仮定(想定)は、その他のIS/LMモデルを使った分析やニューケインジアンのDSGEモデルを使った分析でも、一般的である。だが、こうした(『標準的な』)想定は、ワルラス法則に反しているだけでなく、実証的にも支持されないと考える。
たとえば、重い不況下では、企業はリスクの増大に備えるとともに、需要の将来見通しを低下させる。その結果、企業は生産を抑制して生産コストを削減(雇用削減)するとともに、設備投資等を抑制するから、企業は資金余剰を拡大させる(あるいは資金不足を縮小させる)。その資金余剰は、不況の深まりによって財政赤字が拡大する政府に金融機関を通じてファイナンス(国債投資【=債券投資】の増大)される。つまり、不況が深くなると、債券市場に企業部門の余剰資金が流入するのである。だからこそ、不況下では、(金融緩和政策がなく、金融政策が中立であるだけでも)金利が低下する。こうした貨幣・債券市場の動向は、「財政出動論26 財政赤字の主因は放漫財政でなく設備投資の変動」の部門別資金過不足のグラフで明らかだ。このページの一つ目のグラフは日本について詳しく説明している。また、後段の米国のグラフも、同様の状況を示している。
つまり、不況下で、財・サービス市場の需要不足の範囲で国債が発行される限り、債券市場は超過需要下にあり、債券を買うための資金は余っている状況である。したがって、金利はそもそも上昇しないか、上昇が緩やかになる。この結果、海外からの資金が流入することはないから、自国通貨高となることもないから、輸出が減少することもない。
つまり、そもそも、マンデル・フレミング・モデルは不況下では機能しないのである。
ただし、在庫変動レベルの軽微な景気変動の場合、不況は短期で終わるため、認知ラグや決定ラグで財政出動が遅れて、財政出動の時期が景気の自律的な回復期と重なることが少なくない。すると、確かに、資金需要が競合して、マンデル・フレミング・モデルが想定するようなことが起こる。
しかし、大恐慌、日本の90年代初頭バブル崩壊後の不況、リーマン・ショック後の世界同時不況といった長期停滞を伴う重い不況(拙著では「重不況」と呼ぶ)では、こうした時期のずれは生じない。
場合が少なくない。すると、景気拡大〜好況期に財政出動が行わてしまい、そ
の影響が取り込まれてしまう。
さらに、恒常的に供給側に問題を抱える開発途上国や米国など(米国は貿易
収支に巨額の赤字があるから、供給側に問題があると言える)のような国は、
軽微な不況の場合、需要不足の影響が小さくなる傾向がある。つまり、需要不
軽微な不況の場合、需要不足の影響が小さくなる傾向がある。つまり、需要不
足があるかどうかがマンデル=フレミング効果の発現に重要だと考える観点で
は、実証に使うべきではない対象事例になる。
一方、このように、需要不足かどうかがマンデル=フレミング効果に影響す
ると考える立場からすると、長期停滞下では、需要不足が大きく、かつ需要不
足の持続期間が長いため、ラグのために財政出動が遅れ、好況期に財政出動が
行われてしまうという問題はなくなる。
は、実証に使うべきではない対象事例になる。
一方、このように、需要不足かどうかがマンデル=フレミング効果に影響す
ると考える立場からすると、長期停滞下では、需要不足が大きく、かつ需要不
足の持続期間が長いため、ラグのために財政出動が遅れ、好況期に財政出動が
行われてしまうという問題はなくなる。
こうした点を適切に考慮していない実証研究には、意味がない。
原因は、財政出動が行われるのは不況期である点にある。不況期には、財・サービス市場の需要が低下して、その需要として使われなかった資金は、貨幣市場や債券市場に流入して、これらの市場は超過需要下にある。つまり、貨幣市場、債券市場は、資金があふれている。
これは、ワルラス法則に従えば当然のことだ。
注)債券市場が超過需要で、資金があふれているとは、債券の買い手が多いのに
債券の供給=新規発行が不足している状況・・・「New Economic Thinking 2」
参照。
ワルラス法則は、財・サービス市場で需要不足があれば、他の市場で同規模の超過需要が存在しなければならないことを意味する。
念のためあらためて(「New Economic Thinking 2」や「New Economic Thinking11」の中段「◎重不況(大恐慌、リーマンショック後の金融危機・世界同時不況など)では」の項などと重なるが)「他の市場」がどこかを考えてみよう。財・サービス需要が不足すれば、企業は生産を縮小する。したがって、労働市場も需要不足(労働需要が不足し失業が増加)となるから、それは労働市場ではない。労働市場の需給は、基本的に財・サービス市場と同一方向に変動している。
また、不況になれば、企業は、取引先企業の倒産や銀行側の貸し渋りなどのリスク増大に備えて、資金を流動性の高い状態で保有しようとする。したがって、資金を固定するような(資金が急に必要になったとき、すぐには売れない。すぐに売ろうとすると買いたたかれる)土地市場に資金は置かない。こうした状況に即座に対応できる、最も流動性の高い資産の保有形態は、貨幣であり、それについで債券である。
一方、財・サービス市場で需要不足が発生している状況では、企業の売上見通しは低下する(不況である)から、株式市場は値下がり傾向となる。つまり、株式市場も対象ではない。
つまり、財・サービス市場の需要不足に対応して(ワルラス法則に従って)超過需要が生ずる市場とは、貨幣市場か債券市場なのである。財・サービス市場で需要不足があるとき、ワルラス法則に従って、貨幣市場、債券市場では超過需要が発生している状況なのである。
ところが、マンデル=フレミング・モデルでは、財政出動の影響を検討する際に、貨幣市場は需給均衡状態から出発する。このモデルの出発点の仮定は、ワルラス法則に反している。
なお、こうした貨幣・債券市場の(出発点での)需給均衡の仮定(想定)は、その他のIS/LMモデルを使った分析やニューケインジアンのDSGEモデルを使った分析でも、一般的である。だが、こうした(『標準的な』)想定は、ワルラス法則に反しているだけでなく、実証的にも支持されないと考える。
たとえば、重い不況下では、企業はリスクの増大に備えるとともに、需要の将来見通しを低下させる。その結果、企業は生産を抑制して生産コストを削減(雇用削減)するとともに、設備投資等を抑制するから、企業は資金余剰を拡大させる(あるいは資金不足を縮小させる)。その資金余剰は、不況の深まりによって財政赤字が拡大する政府に金融機関を通じてファイナンス(国債投資【=債券投資】の増大)される。つまり、不況が深くなると、債券市場に企業部門の余剰資金が流入するのである。だからこそ、不況下では、(金融緩和政策がなく、金融政策が中立であるだけでも)金利が低下する。こうした貨幣・債券市場の動向は、「財政出動論26 財政赤字の主因は放漫財政でなく設備投資の変動」の部門別資金過不足のグラフで明らかだ。このページの一つ目のグラフは日本について詳しく説明している。また、後段の米国のグラフも、同様の状況を示している。
つまり、不況下で、財・サービス市場の需要不足の範囲で国債が発行される限り、債券市場は超過需要下にあり、債券を買うための資金は余っている状況である。したがって、金利はそもそも上昇しないか、上昇が緩やかになる。この結果、海外からの資金が流入することはないから、自国通貨高となることもないから、輸出が減少することもない。
つまり、そもそも、マンデル・フレミング・モデルは不況下では機能しないのである。
ただし、在庫変動レベルの軽微な景気変動の場合、不況は短期で終わるため、認知ラグや決定ラグで財政出動が遅れて、財政出動の時期が景気の自律的な回復期と重なることが少なくない。すると、確かに、資金需要が競合して、マンデル・フレミング・モデルが想定するようなことが起こる。
しかし、大恐慌、日本の90年代初頭バブル崩壊後の不況、リーマン・ショック後の世界同時不況といった長期停滞を伴う重い不況(拙著では「重不況」と呼ぶ)では、こうした時期のずれは生じない。